この記事では、ベトナム進出・事業展開のタイミングで活用可能性が高い補助金・助成金の制度を具体例とともに解説していきたい。
ベトナム進出時に活用できる補助金・助成金
ベトナム進出時には補助金制度の活用が推奨される。補助金も助成金も政府から支出されるもので、原則は返済不要である。 補助金と助成金の違いであるが、補助金は予算が決まっていて最大何件という決まりがある。そのため、公募方法によっては抽選や早い者勝ちになるなど、申請してももらえない可能性もある。一方、助成金は受けとるための要件が決まっているので、その要件を満たしていれば、ほぼ確実に支給されるという違いがある。
現在、多くの分野でベトナム進出・事業展開において活用できる補助金・助成金の制度が存在している。それらの補助金・助成金の制度の殆どは「ベトナムでの進出や事業展開」を要件としている訳ではないが、対象国がアジア地域、新興国と指定されているため、結果として、ベトナム進出の補助金として活用できる。
殆どの制度においては、必ずしもすべての経費がもらえる訳ではない。事前に補助対象となる経費・補助の割合・上限額、要件などを確認することが重要になる。
それでは次に具体的な事例から見ていきたい。
環境省:二国間クレジット制度(JCM制度)
二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)は、途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度である。環境省によれば、「途上国への優れた脱炭素技術等の普及を通じ、地球規模での温暖化対策に貢献するとともに、日本からの温室効果ガス排出削減等への貢献を適切に評価する」と記載されている。
JCM制度におけるベトナムの状況
日本政府は既にアジア、アフリカ、島しょ国、中南米及び中東の17か国とJCMについて署名済みであり、これにはベトナムも含まれる。JCM制度の予算額であるが、JCM 設備補助事業とコ・イノベーションによる脱炭素技術創出・普及事業を合計した事業の総予算額として、3ヶ年で 83 億円となっている。
JCM制度の最大のポイントとしては、類似技術を活用した過去の採択案件の数に応じて補助率が異なるという点だ。過去に類似技術の案件がなければ、補助率は50%が上限となるが、1~3件の場合は40%上限、4件以上は30%上限となっている。すなわち、類似技術の採択がない新しい技術であれば、補助率が高くなる。
ベトナムについては過去の採択案件を見ると、2021年7月12日時点で、地球環境センターの公式サイトを確認すると、32件が既に採択事例としてリストアップされている。分野としては省エネルギー、再生可能エネルギー分野が大部分を占めている。特に太陽光発電については既に採択案件が複数ある状況であり、50MWクラスの案件、屋根置きの案件が現在採択されている。
2021年度にはバイオマス発電、廃棄物発電の案件も初めて採択された事例となり、注目に値する。投資額が数十億円以上と大規模になりがちな風力発電については、2021年7月12日時点では採択の事例がない。
JCM採択のポイント
JCM採択のポイントであるが、案件の実施可能性を十分に証明できることが最も重要になると考えられる。すなわち、再生可能エネルギーの発電事業であれば、土地の確保、許認可取得、環境影響評価、収益性、導入する設備に価格や技術の優位性があること等が挙げられる。JCM制度の本来の目的として、CO2削減量を正確に算出することは言うまでもない。
また、採択された後もベトナム現地における税免税制度の適合性、事業実施期間における報告の実施についても申請時に念頭に入れる必要があるだろう。
JICA(外務省):中小企業・SDGsビジネス支援事業
中小企業・SDGsビジネス支援事業はJICA(国際協力機構)が実施する事業であるが、新興国へ流入する資金量においてはODA(二国間援助及び多国間援助)よりも民間資金が遥かに上回るという背景を受けて設立された事業である。JICAのホームページによれば、中小企業・SDGsビジネス支援事業とは「途上国の開発ニーズと民間企業の製品・技術のマッチングを支援」する事業と記載がある。
また、本事業は企業の申請目的に応じて、以下の3つのメニューが用意されている。
- 基礎調査:基礎情報の収集・分析(数か月~1年程度)
- 案件化調査:技術・製品・ノウハウ等の活用可能性を検討し、ビジネスモデルの素案を策定(数か月~1年程度)
- 普及・実証・ビジネス化事業:技術・製品やビジネスモデルの検証。普及活動を通じ、事業計画案を策定(1~3年程度)
対象国ベトナムの申請状況
2009年から現在までの採択された案件については抽出すると、ベトナムが対象国として採択された案件は221件が該当している(2021年7月12日時点)。同じ期間で検索すると、インドネシアは152件、カンボジアは74件、タイは81件、ミャンマーは89件、ラオスは44件、マレーシアは32件、フィリピンは76件となっており、ベトナムが最も多い。日本企業のベトナムへの関心の高さがここから伺える。
また、同じ条件で分野別に採択された案件数を見ると、農業が48件、水の浄化・水処理が34件、環境・エネルギーが29件、保健医療が24件、廃棄物処理は15件といった分野が上位になった。
採択のポイント
本事業は事業名の通り、主には中小企業の海外展開支援の位置づけであり、中小企業にとっては活用の余地は大きいと考えられる。採択のポイントとしては、ベトナム現地の動向を把握し、ベトナムの発展への貢献性を示せるかがポイントになるだろう。但し、ベトナム市場にネットワークや知見を豊富に持つ企業が多いとは考えにくい。そのため、「外部人材(コンサルティング企業)」の活用が望ましい。
ベトナム現地に拠点を持ち、ベトナムの動向に精通したコンサルティング企業を活用することが推奨される。提案事業調査の対象となる各機関へのヒアリング、現地確認、現地での情報収集は事前調査として、入念に実施することが理想的である。
JETRO:海外サプライチェーン多元化等支援事業
海外サプライチェーン多元化等支援事業は、日本・ASEANのサプライチェーン強靭化のため、東南アジア地域を中心に、海外生産拠点の多元化を目的とした設備導入、実証事業、FS調査等を支援する事業である。
2020年に新型コロナウイルスが中国で発生し、多くの日本企業が直面した問題がサプライチェーンの構築であった。もともと2000年代初頭からチャイナプラスワンという位置付けでベトナムは、中国の次の拠点、サプライチェーン拠点として注目を集めていた。新型コロナウイルスの発生を契機に、サプライチェーンの再編、ASEAN強化という潮流が再び強くなっている。
昨年7月には第一次公募として、のべ30社以上が採択された。事業実施国別に見ると、ベトナム15件、タイ6件、マレーシア 4件、フィリピン3件、ラオス2件、ミャンマー1件、インドネシア1件、と圧倒的にベトナム中心になっていることがわかる。
2021年7月12日時点では既に第4回公募における採択事業者が公表されている。
この事業では、申請企業の規模や日本-ASEANの供給網強靱化の度合いに応じて、事業費の補助率を決定する仕組みとなっている。事業費として申請できる上限であるが、複数の中小企業が連携して実施する「中小企業等グループ」が67億円、「中小企業」が75億円、「大企業」が100億円。規定される補助率(それぞれ3/4、2/3、1/2)を乗算して1億~50億円となる必要があり、最終的な補助金交付額は供給網の強化にどれほど寄与するかに応じた補助率調整指数(20~100%)を乗じて決定される仕組みだ。
本事業の公募要領を見ても中国への言及はなく、日本とASEANの供給網強化に寄与する事業ならば対象となるため、生産拠点を中国からベトナムへ移管することを検討している企業にとっては最適な補助金になるだろう。
結論:自社の事業戦略に適する補助金の選択が重要
以上、ベトナム進出において活用の余地がある補助金・助成金制度について解説してきた。第一に重要であることが、自社の課題や戦略に適した補助金を選定することである。このレポートではすべての補助金制度をリストアップすることはできないが、他にも活用の余地が高い補助金の制度は数多くある。特にエネルギー・環境保護分野での補助金制度は多く、多くの日本企業にとって活用の余地があるだろう。
申請の対象や条件などの正確な確認が必要であることは言うまでもないが、いずれにせよ、現地の動向については申請の段階で既にある程度は把握している必要がある。鶏が先か卵が先かの議論でもあるが、採択後に本来は実施すべきような現地調査についても申請時にある程度は実施し、実現可能性を申請書類にて示す必要が望ましい。その際、ベトナム語での情報収集や現地企業とのやり取りが発生する場合もあるだろう。自社に既にベトナム人社員が在籍している場合は特に大きな問題ではいが、そうでないケースのほうが圧倒的に多いであろう。スポット的に現地に精通したコンサルティング企業に問い合わせるのもよい選択肢の1つである。
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