国際貿易を取り巻く新たな環境とベトナムのサプライチェーンへの圧力
2018年から2025年にかけて、米国の関税政策は国際貿易の流れに大きな変化をもたらしてきた。これにより、地域サプライチェーンにおけるベトナムの重要性が高まる一方、物流インフラや原産地管理に対する負担も増している。
ベトナムですでに生産活動を行っている、あるいは今後の事業拡大を検討している日本企業にとって、ベトナムにおける物流とサプライチェーンの再評価は、経営戦略上の重要課題となりつつある。 しかし、2026年に入っても関税環境は変化を続けている。
ベトナム商工省によると、2026年7月24日から、米国はSection 301に基づき、対象品目に対して12.5%の追加関税を適用している。一部の品目については免除措置が設けられている。
近年、米中貿易摩擦や米国の通商政策の変化を背景に、世界の企業は生産ネットワークの見直しを進めている。ベトナムは、中国に近接する地理的優位性、比較的広範な自由貿易協定(FTA)網、豊富な労働力、拡大を続ける生産能力などを背景に、サプライチェーン再編の有力な受け皿として注目されている。
FTAとは、Free Trade Agreementの略称であり、日本語では自由貿易協定を意味する。
米国とベトナムの貿易規模にも、こうした傾向が明確に表れている。米国通商代表部(USTR)によると 、2025年における米国とベトナムの物品貿易総額は約2,095億米ドルに達した。このうち、米国によるベトナムからの輸入額は1,939億米ドルで、2024年比42.2%増となった。
これは、ベトナムがグローバル・サプライチェーンにおいて、これまで以上に重要な役割を担う機会を示している。一方で、貨物量の急増は、港湾、倉庫、国内輸送、通関手続き、原産地管理などに新たな圧力をもたらしている。
企業にとって重要なのは、単に「製品がベトナムで生産されたかどうか」ではない。原材料がどこから調達されたのか、ベトナム国内でどのような生産工程が行われたのか、そして企業がその原産地を証明できるかどうかが、これまで以上に問われるようになっている。
こうした環境下で、ベトナムの物流産業には、二つの要件への対応が求められている。
- 増加する貨物量を処理できる十分な能力を確保すること
- 輸送コスト、通関時間、輸出入書類、原産地に関するリスクを従来以上に厳格に管理すること
日本企業にとって、これらは収益性に直結する問題である。関税率の変更によって米国市場での最終販売価格が変動する可能性があるほか、原産地に関する問題が発生すれば、追加検査、納期遅延、物流費の増加などにつながりかねない。
したがって、今後のサプライチェーン戦略は、単なるコスト削減策ではなく、コスト、スピード、安定性、コンプライアンス対応をどのように両立させるかという経営課題として捉える必要がある。
近年の米国による対ベトナム関税政策の動向
日本企業にとって最も重要な点は、米国の関税政策が、貿易条件だけでなく、原産地やサプライチェーンの透明性とも密接に結び付く方向へ変化していることである。
そのため、米国の対ベトナム関税を評価する際には、一律の関税率だけを確認するのではなく、複数の規制を重層的に検討する必要がある。
法的枠組みと適用税率
ベトナム商工省が公表した情報によると、米国通商代表部(USTR)は2026年7月24日に最終決定を発表し、対象品目に対する10%および12.5%の二つの追加関税率を維持した。
これらの措置は、米国東部時間の2026年7月24日から適用されている。また、所定の条件を満たす一部のケースについては、経過措置や適用除外の仕組みも設けられている。
ベトナムから米国へ輸出する場合、実際に適用される税率は、製品の種類、HSコード、最恵国税率(MFN税率)、その他の貿易措置などによって異なる可能性がある。そのため、企業は製品ごとに適用条件を確認する必要がある。
これは、ベトナムから米国への輸出事業にとって極めて重要な変化である。従来、企業はベトナムにおける生産コストの削減を主な課題としてきた。しかし現在は、輸出事業の採算性を評価する際、関税コストとコンプライアンス対応コストも含めて検討しなければならない。
厳格化する原産地規則
関税政策と並び、原産地管理も米国向け輸出における重要な要素となっている。
ベトナムで生産された製品であっても、輸入部品や輸入原材料を大量に使用している場合、企業には生産工程や原材料の調達先を明確に証明できる体制が求められる。
特に、次のような事業モデルでは注意が必要である。
- 中国から部品を輸入し、ベトナムで組み立てるモデル
- 複数の国から原材料を調達するモデル
- OEM・ODM方式による生産
- 生産工程を複数の国に分散するモデル
- ベトナムで加工を行った後、米国へ製品を輸出するモデル
こうしたケースでは、最終的な原産地証明書を保有しているだけでは、原産地リスクを十分に管理できない可能性がある。サプライヤー、原材料、生産工程、付加価値比率などに関する記録も、重要な証明資料となり得る。
違法な迂回輸出に対する管理強化
米国とベトナムは、関税回避を防止し、サプライチェーン上の貿易不正に対する監視能力を高めるため、協力を強化している。
ベトナムは米国向け輸出において存在感を高めているため、違法な迂回輸出への対応は、特に重要な課題となっている。
2026年8月、ベトナム側は迂回輸出をめぐって米国との協議を継続していると説明し、透明かつ安定した貿易環境を維持する方針を強調した。ロイター(Reuters)がベトナム外務省の情報として報じたところによると、米国政府は、主に中国に関連する貨物が第三国を経由し、米国の輸入関税を回避している問題に関心を示している。
したがって、日本企業がベトナムでサプライチェーンを構築する際には、ベトナム国内では簡易な加工のみを行い、形式上の原産地を変更するような事業モデルを避けなければならない。
関税変動がベトナムの物流産業と企業活動に与える具体的な影響
米国の関税政策の変動は、輸出企業だけでなく、ベトナムの物流システム全体にも広く影響を及ぼしている。その影響は、主に次の三つの側面から捉えることができる。
- コストおよび各種手続き
- 物流インフラの処理能力
- 企業のオペレーションリスク
輸送費と通関手続きの負担増加
原産地確認やサプライチェーンの透明性に対する要求が高まれば、企業は書類の準備、サプライヤーの確認、原材料の原産地証明などに、より多くの経営資源を投入しなければならない。
貨物が検査対象となった場合や追加書類の提出を求められた場合には、処理時間が長期化する可能性がある。その結果、倉庫保管料、コンテナ保管料、輸送計画の変更に伴う追加費用などが発生するリスクも高まる。
これは、ジャストインタイム型の輸出体制を採用している企業にとって、とりわけ重要な問題である。通関手続きの一部に遅れが生じるだけでも、その影響が生産スケジュール、納品計画、在庫管理へと連鎖する可能性がある。
したがって、ベトナムにおける物流体制を評価する際には、運賃の安さだけで判断するのではなく、サプライチェーン全体の総コストと安定性を考慮する必要がある。
ベトナム内国の物流インフラにおける混雑・寸断リスク
生産活動と輸出の拡大は、ベトナムの主要工業地域や港湾における物流処理能力にも圧力をかけている。
ベトナム政府は、増加する需要に対応するため、港湾能力の拡張を進めている。北部のハイフォンでは、ラックフェン港湾地区における第9、第10、第11、第12の計4カ所の新たなコンテナバースへの投資が承認された。総投資額は約24兆8,460億ドンである。
新設バースは、約1万2,000~1万8,000TEUのコンテナ船を受け入れられる設計となっており、背後地の物流システムとの接続も計画されている。
TEUとは、Twenty-foot Equivalent Unitの略称であり、20フィートコンテナ1個分を表す貨物量の単位である。
南部では、ホーチミン市がカイメップハーおよびカンザー地域における大規模物流プロジェクトを推進している。このうち、カイメップハー総合・コンテナ港プロジェクトの予定投資額は約50兆8,200億ドン、カンザー国際中継港プロジェクトの投資規模は約128兆8,720億ドンである。
これらのプロジェクトからも、ベトナムが海上輸送と物流インフラの処理能力向上に積極的に取り組んでいることが分かる。
もっとも、輸送需要が急速に増加すれば、港湾、倉庫、道路輸送、物流センターなどに局地的な混雑が発生する可能性は依然として残る。
企業とりわけ日本企業が直面するオペレーションリスク
日本企業にとって最大のリスクは、物流費そのものではなく、サプライチェーン全体を管理できないことである。
例えば、次のような状況では、事業運営上の問題が発生しやすい。
- 原材料の原産地を十分に把握していない
- 単一のサプライヤーに依存している
- 代替サプライヤーを確保していない
- 特定の物流ルートに依存している
- 原産地関連書類が標準化されていない
- ベトナム国内のサプライヤーに関する情報が不足している
特に、ベトナムに進出する日系企業は、品質、供給の安定性、トレーサビリティに対して高い基準を設ける傾向がある。
そのため、ベトナムで現地サプライヤーを開拓する目的は、単なるコスト削減にとどまらない。品質、原産地、生産の安定性に関する要件を満たせるサプライヤーを確保する必要がある。
ベトナムにおける現地サプライヤーネットワークの構築は、単なる購買活動ではなく、サプライチェーン戦略の一部として位置付けるべきである。
日本企業に求められるサプライチェーン戦略
通商政策が急速に変化する中、日本企業は、単純なコスト最適化型のサプライチェーンから、関税、原産地、物流環境の変化に適応できるサプライチェーンへ移行する必要がある。
供給ネットワークの再構築
特定の国や単一のサプライヤーへの依存を軽減するうえで、調達先の多様化は重要な施策となる。
日本企業は、次の三つの方向性を並行して検討できる。
- ベトナム国内のサプライヤーから調達する原材料の比率を高める
- ASEAN域内で代替サプライヤーを探索する
- リスクの高い原材料について複数の調達先を確保する
現地調達化は、短期間で全ての調達先をベトナムへ移転することを意味するものではない。
より現実的なのは、コスト、原産地、生産継続性への影響が大きい原材料や部品を特定し、それらを優先して代替調達先を探索する方法である。
米国向けに輸出している企業にとっては、こうした取り組みにより、原産地の管理能力を高めると同時に、通商政策が変化した際のリスクを軽減できる可能性がある。
物流インフラと倉庫配置の最適化
企業は、サプライチェーン全体の総コストに基づき、工場、倉庫、輸送ルートの配置を再評価する必要がある。
賃料の安い倉庫を選んでも、工場や港湾から遠ければ、必ずしも全体の効率向上にはつながらない。同様に、運賃が安い港湾であっても、荷役・通関時間が安定しなければ、在庫コストが増加する可能性がある。
そのため、企業は次の要素を総合的に評価する必要がある。
- 工場の立地
- 原材料倉庫の配置
- 完成品倉庫の配置
- 中継倉庫の配置
- 港湾までの距離
- 国内輸送に要する時間
- コンテナ処理能力
- 道路・水運への接続性
取扱貨物量の多い企業では、倉庫管理システムや物流データを活用することで、在庫量、受注処理時間、需要予測の精度を高めることも可能となる。
営業導入支援と現地オペレーション支援の活用
ベトナムに大規模な現地チームを置いていない日本企業にとって、現地支援会社の活用は、事業の立ち上げ期間を短縮し、オペレーションリスクを抑える有効な手段となる。
サプライヤー探索、OEM企業の生産能力確認、輸出入支援、書類確認、通訳、現地パートナーとの交渉などには、ベトナム市場に関する実務的な知見が不可欠である。
特に、企業が短期間で現地サプライヤーネットワークを構築する必要がある場合、ベトナムに拠点を置く支援会社を活用し、候補企業の探索とスクリーニングを進めることで、調査期間を短縮できる。
ベトナムでの事業拡大を検討している日本企業にとっては、自社の運営体制へ大規模な投資を行う前に、市場を試験的に検証する方法としても有効である。
ONE-VALUE が日本企業の市場調査とベトナム事業戦略の構築を支援
ワンバリュー(ONE-VALUE)は、市場調査、戦略策定、パートナー探索から、ベトナムにおける事業の実行まで、日本企業を幅広く支援している。
ベトナム市場では、市場データを収集するだけでは十分ではない。収集したデータを、拠点の立地、提携先、サプライヤー、物流体制、ビジネスモデルに関する具体的な意思決定へつなげる必要がある。
ONE-VALUE の中核的な支援能力
ワンバリュー(ONE-VALUE)は、ベトナムにおける経営戦略コンサルティング、投資コンサルティング、市場調査、ビジネスマッチング、事業運営支援などを提供している。
米国の通商政策による影響を評価している日本企業に対しては、次のような複数の視点から分析を支援できる。
- 市場・業界構造
- 競争環境
- サプライチェーン
- サプライヤー・OEM企業
- 物流インフラ
- ビジネスパートナー
- 投資環境
- 関連規制・手続き
このようなアプローチにより、企業は「市場がどのように変化しているか」を理解するだけでなく、「自社が何を変える必要があるか」を具体的に特定できる。
市場調査・経営戦略コンサルティングサービス
日本企業がサプライチェーンの再構築を進めるうえで、最初に行うべきことは、政策変更が自社の事業にどの程度の影響を与えるかを正確に把握することである。
ワンバリュー(ONE-VALUE)は、市場調査、業界調査、競合分析、企業・サプライヤー調査、ベトナムの事業環境評価を支援している。
企業が生産活動の一部移転や新たな調達先の開拓を検討している場合、調査対象としては次のような項目が挙げられる。
- ベトナムの生産能力
- 現地サプライヤーの探索可能性
- OEM生産能力
- 物流システム
- 工業団地の立地
- 輸出可能性
- 競合企業
- サプライチェーンに関連するリスク
これらの調査結果を基に、自社の事業目標に適したベトナム・サプライチェーン戦略のロードマップを策定することが可能となる。
営業導入支援・輸出入支援サービス
ベトナムで具体的な事業活動を展開する企業に対し、ワンバリュー(ONE-VALUE)は営業導入支援と輸出入支援を提供している。
支援内容には、ベトナムでの販売・マーケティング活動、サプライヤーやOEM企業の探索、輸出入手続きのサポートなどが含まれる。
特に、調達先の多様化を検討している企業にとって、ベトナム企業の探索と評価は、サプライチェーン再構築の一環として実施できる。
単に企業リストを提供するだけでは十分ではない。日本企業が実際に重視する生産能力、製品、事業規模、要求への対応力、将来的な協業可能性などを踏まえ、候補企業を評価する必要がある。
これは、日本企業が市場調査の段階から、実際の事業展開へと着実に移行するためのアプローチである。
結論
米国の関税政策の変動を受け、日本企業には、ベトナムにおける物流・サプライチェーン戦略全体の見直しが求められている。
米国とベトナムの貿易規模はすでに大きく、2025年における米国のベトナムからの物品輸入額は1,939億米ドルに達した。同時に、米国の通商政策は、貨物の原産地、サプライチェーンの透明性、違法な迂回輸出の防止をこれまで以上に重視している。
こうした環境下でも、ベトナムは物流と港湾インフラの整備を進めている。ラックフェン、カイメップハー、カンザーにおけるプロジェクトは、ベトナムが国際貿易ルートとの接続能力を強化していることを示すものである。
しかし、物流インフラの改善は、企業が現在のサプライチェーン戦略を一切変更せずに維持できることを意味しない。日本企業が優先的に取り組むべき課題は、次の三点である。
- 製品群および輸出ルートごとに、米国の関税政策が与える影響を見直すこと
- 原材料の原産地管理を強化し、品質、原産地、生産の安定性に関する要件を満たせるサプライヤーネットワークを構築すること
- 調達先の多様化、倉庫配置の最適化、代替物流ルートの確保を通じ、ベトナムの物流・サプライチェーンを再構築すること
言い換えれば、今後のベトナムの競争力は、生産コストの低さだけでは決まらない。国際貿易の変動に対応できる、透明性、柔軟性、適応力を備えたサプライチェーンを構築できるかどうかが、重要な要素となる。
ベトナムですでに事業を展開している企業、または今後の投資拡大を検討している日本企業にとって、現時点からサプライチェーン評価を行うことは、今後の通商政策の変化に先行して対応するための重要な一歩となる。
ワンバリュー(ONE-VALUE)は、日本企業に対し、ベトナムでの市場調査、経営戦略コンサルティング、サプライヤー・OEM企業の探索、ビジネスマッチング、営業導入支援、輸出入支援などを提供している。
米国の関税政策が自社のサプライチェーンに与える影響について詳細な分析を希望する場合、またはベトナムにおける物流戦略や事業拡大について相談を希望する場合は、ベトビズ(VietBiz)ウェブサイトの「お問い合わせはこちらから」より、ワンバリュー(ONE-VALUE)の専門家チームまで問い合わせいただきたい。
