PMIを見通して買収を進めるべき理由
採用・外部委託・現地人材育成から考える投資後の組織づくり
PMI(Post Merger Integration:M&A後の経営統合)の目的は、投資後の経営・業務・人材を整え、投資時に期待した価値を実現することである。取引を完了させたり、二つの組織図を一つにまとめたりするだけで、その目的が達成されるわけではない。日越間の実務におけるより大きな課題は、立ち上げ期には十分な柔軟性を持ち、知見を組織に蓄積できるだけの安定性を備え、さらにベトナム人材が将来の経営・管理を担う存在へ成長できる、魅力ある運営の仕組みをつくることである。
本稿では、PMIの中でも人材・組織・業務運営に焦点を当てる。これらの課題は、M&A後だけでなく、新規進出や既存のベトナム現地法人の体制強化にも共通する。ONE-VALUEが重視するのは、必要な人材を配置することと、その人材が力を発揮できる組織をつくることを、一体で支援する視点である。
- この記事でわかること
- PMIは、極めて現実的な問いから始まる
- 新しいプロジェクトのたびに一人を採用することはできない
- 中核業務は社内採用
- 外部委託には移行計画が必要であり、無期限の解決策ではない
- 最大のリスクは人の交代ではなく、業務の記憶を失うこと
- 典型的な摩擦―着任したばかりの日本人管理者と、勤続年数の長いベトナム人材
- 懸念すべき二つの結末―優秀層の退職、または残留者の意欲低下
- 年功による昇進だけでは、管理職は育たない
- 数年単位の任期と、リスク回避を優先しやすい心理
- 給与制度とハイクラス人材―求められるのは、統制を保った現地化
- 日本らしさを守りながら、ベトナムに橋渡し機能を築く
- ONE-VALUEの強み―一人の人材紹介にとどまらない
- PMIまで支援できることが、ONE-VALUEの起用理由になる
- PMI段階に適した人材ロードマップ
- 「ベトナムに進出する」から「ベトナムで成長する」へ
- ONE-VALUEの強みは、能力を組織化する力にある
この記事でわかること
・PMIを見据えて、買収前から準備すべき人材・組織・業務
・採用、外部委託、ハイブリッドを使い分ける考え方
・日越間で知識を残し、現地管理職を育成する仕組み
・ONE-VALUEが投資前から投資後まで支援できる理由
PMIは、極めて現実的な問いから始まる
―すぐに採用するか、まず外部委託するか
ベトナムで法人を設立し、投資の準備を進め、あるいは新規プロジェクトを稼働させる段階では、企業の関心は取引、許認可、予算、承認スケジュールに集中しがちである。しかし、準備から実行へ移った瞬間に、人材の問題が浮上する。誰がプロジェクトを追い、現地法人を管理し、会計・総務・監査を調整しながら、日本本社へ報告するのか。これは付随的な問題ではない。明確な実行体制がなければ、書面上で決定された事項も、現場で動かす段階で遅延するおそれがある。
通常、日本企業の当初の事業計画には人件費予算が織り込まれている。しかし、個々のプロジェクトが動き始めると、「案件が一つ増えるたびに一人採用する」という方法はすぐに限界を迎える。業務量は一定ではなく、緊急対応が集中する月もあれば、その後は定期的なフォローだけになることもある。フルタイムで採用した一人がすべての業務をカバーできるだけの専門性を持つとは限らない一方、機能によっては一人分の稼働を満たすほどの業務量がまだ発生していない。
そこで検討すべきなのが、より現実的な選択肢である。立ち上げ期の緊急支援と中長期の伴走支援を切り分け、まず外部リソースを活用して業務を動かし、業務量を把握しながらプロセスを標準化する。そのうえで、どの機能を内製化し、どのポジションを正式に採用すべきかを判断する。この進め方は、組織づくりを先送りするものではない。実際の業務データに基づき、本当に必要な役割を適切なタイミングで採用するための方法である。
M&Aの場合には、こうした検討を買収前のデューデリジェンス(DD)から始めることも重要である。既存の経営者や従業員が担っている機能、日本側が投資後に求める管理水準、その間を埋めるために必要な人材・業務を把握しておけば、投資実行後の体制づくりを具体的に準備できる。
新しいプロジェクトのたびに一人を採用することはできない
新規案件を受注するたびに定員を一人ずつ増やすことはできない。規模の小さい現地法人でも、会社運営、総務、会計、監査、採用、事業開発支援まで、必要な機能は幅広い。しかし、それぞれの業務量は一人分に満たないことが多い。すべてをフルタイムのポジションとして切り出せば、事業が十分な仕事量と売上を生み出す前に組織だけが肥大化してしまう。
反対に、すべてを一人の多能工型人材に集約すれば、過度に広い職務設計になりやすい。その人は、日本側のプロセスを理解し、ベトナムで実務を処理し、各分野の専門業者を調整し、さらに二言語で報告しなければならない。一部の領域に秀でていても、すべての領域で深い専門性を持つことは難しい。法務、会計、労務上の問題が発生すれば、結局は外部専門家が必要になる。したがって、一人を採用しただけで、より広い支援体制の必要性がなくなるわけではない。
企業は、「何人いるか」という発想から、「どの能力をどう設計するか」という発想へ転換しなければならない。必要な機能をすべて洗い出し、各機能の利用頻度と業務量を見極めたうえで、社内に保有すべき能力、必要に応じて利用できる能力、特定の時期だけ必要となる能力に分類する。適切に分類できれば、少人数の組織でも十分な専門性を確保しつつ、業務量が不足する機能の固定費を抱えずに運営できる。
中核業務は社内採用
立ち上げ期のバックオフィスは外部リソースを活用
日本企業が採用枠を確保できる場合、不動産開発、商品開発、市場調査など、中核事業に近いポジションを優先する傾向がある。これらは事業機会を生み、業界知識を蓄積し、現地法人の競争力を形成する役割だからである。一方、会社運営、総務、会計の一部、監査対応の調整といった支援機能は、立ち上げ期には外部委託することができる。
この切り分けは、バックオフィスの重要性が低いことを意味しない。むしろ、会計、総務、会社運営は、現地法人が安全に事業を行うための基盤である。ただし、その基盤を初日からフルタイムの一ポジションとして構築する必要はない。サービスチームが実務を運営しながら、業務プロセス、実施頻度、成果物の基準を明確にすることもできる。業務量が十分に増えた時点で、安定した基盤の上に各機能を段階的に内製化すればよい。
これは経営資源を守る方法でもある。現地法人の責任者が、個々の総務業務を自ら処理したり、分断された複数の業者間の伝達役になったりすることに、大半の時間を使うべきではない。必要なのは、全体像を理解し、適切な専門家を調整し、意思決定が必要な事項を整理して報告できる窓口である。この支援層が機能すれば、経営陣はプロジェクト、顧客、パートナー、成長戦略により多くの時間を振り向けられる。
ONE-VALUEは、顧客の課題に応じて、現地の実務と日本側への報告をつなぎ、必要な専門家との連携を支援する。担当者を置く際にも、誰が何を実行し、どの事項について経営者の判断を求めるのかを明確にすることで、顧客が状況を把握できる体制を重視している。
外部委託には移行計画が必要であり、無期限の解決策ではない
外部委託と採用は、互いに排他的な選択肢ではない。実務上有効なのは、業務の実態が明確になるまで一定期間外部サービスを活用し、その後に再評価するアプローチである。外部委託を継続するのが適切な機能もあれば、社内外を組み合わせるべき機能もある。また、役割、管理者、プロセス、キャリアパスが明確になった時点で、正式採用すべきポジションもある。
このモデルを機能させるには、短期と長期のスコープを明確に分ける必要がある。短期間の緊急対応には、固有の目的、成果物、予算を設定する。中長期の定期支援には、人員配置、報告、改善について別の仕組みが必要になる。ただし、スコープを分けても知見の連続性を断ってはならない。初期段階で得た学びを、必ず次の段階へのインプットにする必要がある。
契約形態、業務指揮命令のあり方、担当者の配置方法については、実施前に専門家を交えて確認する必要がある。管理上の価値は契約の名称にあるのではなく、責任が明確であり、情報が保存され、成果に責任を持つ者を顧客が常に把握できることにある。サービス提供者の組織に所属しながら、顧客の社内チームに近い形で働く担当者を置く場合には、特に丁寧な設計が求められる。
最大のリスクは人の交代ではなく、業務の記憶を失うこと
担当者の背後に組織があるモデルには、重要な利点がある。企業が一人の個人だけを採用または起用した場合、顧客に関する理解、対応履歴、書式、業務上の関係が、すべてその人の頭の中に残る可能性がある。その人が退職または異動すれば、組織はほぼゼロから学び直さなければならない。
これに対し、担当者がルール、文書、マニュアル、支援チームを備えた仕組みの中で働いていれば、人が替わっても知識を引き継ぎやすくなる。業務記録、処理原則、報告書式、過去の意思決定、留意事項は組織に残る。後任者はゼロから始めるのではなく、標準化された基盤を引き継ぐことができる。
この点は、ベトナム人材だけでなく日本人管理者も任期により交代する日越の事業環境で、特に重要である。管理者が替わるたびに優先順位や報告方法が変わり、現地チームとの関係を一からつくり直すようでは、企業は長期的な能力を蓄積できない。したがって、PMIでは、いかなる個人の任期よりも長く存続する「組織の記憶」を形成する必要がある。
M&Aでは、業務手順に加え、主要顧客との関係、価格設定の考え方、重要な仕入先との調整経緯なども引継ぎの対象になる。経営者や営業責任者を変更する場合には、その人物が持つ関係性や判断の蓄積を把握し、事業への影響を確認しながら移行することが重要である。

典型的な摩擦―着任したばかりの日本人管理者と、勤続年数の長いベトナム人材
日系現地法人でよく見られる状況がある。派遣された日本人管理者は、営業や技術など元来の専門分野では非常に優秀でも、自ら会社を立ち上げ、総務部門を構築し、人事を管理し、会計制度を設計した経験がないことがある。一方、長年勤務するベトナム人材は、何代もの管理者の下で働き、顧客を理解し、実際の業務がどのように処理されているかを熟知している。
業務運営に関する知識を最も多く持つ人と、最終的な意思決定権を持つ人が一致しないとき、摩擦は生じやすい。日本人管理者はグループの基準を維持しようとし、現地人材はその方法がベトナムの実情に合わないと考える。どちらか一方が正しく、もう一方が誤っていると結論づけても、問題は解決しない。日本本社の目的を現地で実行可能なプロセスに変換すると同時に、ベトナム側のフィードバックを意思決定システムへ戻す仕組みが必要である。
ここで必要な能力は、言葉を通訳する力をはるかに超える。橋渡し役には、経営上の意図、基準が設けられた理由、日本側が懸念するリスク、ベトナム側のキャリアへの期待を理解する力が求められる。言葉だけを訳し、双方の論理や動機まで翻訳できなければ、対話が円滑に進んだように見えても、対立はそのまま残る。
実務では、日本本社の承認が必要な事項、現地で判断できる事項、事後報告で足りる事項を整理することが、その橋渡しの一歩となる。求める報告内容と提出時期も共有し、現地の判断速度と日本側の管理上の要請を両立させる必要がある。
懸念すべき二つの結末―優秀層の退職、または残留者の意欲低下
現地人材が成長の道筋を見いだせないとき、二つの傾向が現れ得る。一つ目は、能力の高い人材が、意思決定への参加、市場水準の処遇、より大きな機会を求めて退職することである。十分に知識が蓄積されていないまま、会社は仕組みを理解する人材を失い、再び採用に追われる。
二つ目は、より見えにくい。人材は会社に残るものの、意欲を失っていく。日本人管理者は数年で交代する一方、自分の役割や権限は広がらないと感じれば、新しい提案や改善に取り組む意欲が弱まることがある。その結果、長年の経験が提案や改革につながらず、かえって組織の慣性になることがある。
問題の根本は、個人の姿勢だけではない。組織がキャリアパスを示さず、段階的に権限を移譲せず、自らの貢献がどのように拡大し得るかを見せなければ、長期的な意欲を求めることは難しい。優れた人事制度は、全員が社長になれると約束する必要はない。影響範囲、専門家としての役割、意思決定権、プロジェクト管理責任、他者を育成する機会など、各人が目指せる将来像を示す必要がある。
特に買収や経営体制の変更時には、従業員が雇用、処遇、上司、働き方に不安を抱くこともある。決定済みの事項と検討中の事項を分けて説明し、重要な人材とは個別に期待する役割を確認する。制度設計とともに、こうした対話を進めることが、人材の定着と新体制への理解につながる。
年功による昇進だけでは、管理職は育たない
長年勤務した社員が自然な流れで管理職へ昇進しても、マネジメント教育を受けていない場合がある。実務能力が高く、チーム内の信頼も厚い一方で、事業計画の立案、業務の委任、部下の評価、問題解決、論理的な報告、後継者育成ができるとは限らない。役職だけが変わり、仕事の進め方が変わらなければ、新任管理職は依然として経験豊富な担当者として行動し続ける。
企業は時に、現地人材の能力がまだ足りないと判断する。しかし、より公平に問うべきなのは、組織が担当者から管理職への移行プロセスを設計してきたかどうかである。本人には、新しい役割で何を達成すべきか、どこまで権限を持つのか、どの基準で報告するのかを明確にし、実際の業務で実践する機会を与える必要がある。一般的なソフトスキル研修だけで、この仕組み全体を代替することはできない。
ONE-VALUEは、管理職育成プログラムは企業の組織構造そのものから始めるべきだと考える。どの機能が必要か、各役割がどの成果に責任を持つか、成長計画に応じてチームがどう変わる必要があるかを先に定義する。そのうえで、論理的思考、問題解決、計画策定、目標管理、報告・コミュニケーション、チーム育成の内容を構築する。研修を実際の変化につなげるには、受講者に権限、指標、そして学んだことを適用できる業務上の場面が必要である。

数年単位の任期と、リスク回避を優先しやすい心理
比較的短い人事ローテーションは、安全を優先する動機を生みやすい。責任者が数年後の帰任を前提としている場合、新たなビジネスモデルを立ち上げ、現地チームへ大胆に権限を移し、人事制度を変えることよりも、安定稼働を維持し、大きな失敗を避けることの方が評価されやすい場合がある。変革の成果は任期終了後に現れるかもしれないが、失敗はすぐに可視化されるからである。
もちろん、すべての日本人管理者が同じではない。ベトナムに深く関わり、新しい事業を力強く生み出し、現地法人を成長させる人もいる。個人差が大きいという事実こそ、企業が各任期の担当者の資質だけに依存すべきではないことを示している。責任者が替わっても、長期戦略、市場データ、人材育成プログラム、合意済みの試行施策が継続される組織的な仕組みが必要である。
こうした状況においてONE-VALUEが担うのは、市場から得られる機会、アイデア、視点を提供し、経営者が意思決定するためのデータを整え、承認済みプログラムの継続性を支えることである。新しい管理者が着任した際にも、ベトナムの組織が積み上げてきた歴史と能力を一から調べ直すことなく、次の意思決定へ進める基盤をつくる。
給与制度とハイクラス人材―求められるのは、統制を保った現地化
経験豊富なベトナム人材を採用しようとすると、市場の給与水準と親会社の制度との違いに直面することがある。二言語を使い、国際的な経営を理解し、事業開発能力を備えたポジションには、高い処遇が求められる場合もある。日本で構築した職位・給与体系を硬直的に適用すれば、適切な人材を採用できない。一方で、現地市場に全面的に合わせれば、現地法人がグループ内の一貫性を損なうおそれがある。
ONE-VALUEが重視するのは、一定の統制を保った現地化である。企業はグループの原則、基準、アイデンティティを守りながら、職位、処遇、キャリアパス、評価方法のうち必要な要素を現地に合わせる。すべてのポジションで高額な専門家を採用する必要はない。将来性のある人材を育成できるポジションもあれば、まだ内製化する必要のない機能もある。三つのケースを見分けることに、コンサルティングの価値がある。
目的は、必要な能力に対して適切に投資し、その理由を日本本社とベトナムのチーム双方に説明できる仕組みをつくることである。なぜその役割にその報酬が設定され、どの成果が求められ、将来どこまで成長できるのかを人材が理解したとき、報酬制度は経営管理の手段になる。
日本らしさを守りながら、ベトナムに橋渡し機能を築く
現地化とは、日本企業の文化を捨てることではない。細部への配慮、規律、品質、顧客本位の姿勢は、多くの日本企業が信頼を築いてきた理由である。迅速な適応を求めるあまり、これらを取り除けば、現地法人は市場で自社を差別化してきた価値そのものを失いかねない。
しかし、文化を守ることは、ベトナム人材が日本の慣行を自力ですべて理解し、そのまま従うよう求めることではない。なぜその基準が存在するのか、顧客や事業をどのように守っているのか、現地チームが基準の改善にどう貢献できるのかを説明する必要がある。社員が意味と自らの役割を理解して初めて、文化は紙の上の規則から日々の行動へ変わる。
ONE-VALUEは、これを「中間に立つ役割」と捉えている。日本企業の経営言語を理解すると同時に、ベトナムの労働市場がどう反応するかも理解する役割である。この橋渡し機能があれば、日本品質を維持しながら、組織のつくり方、教育、権限移譲、ベトナム人材の動機づけを調整できる。PMIでは、日越双方が相手の考え方を理解し、共に実行できる方法をつくることが重要である。
ONE-VALUEの強み―一人の人材紹介にとどまらない
第一の強みは、支援領域が統合されていることである。ONE-VALUEは人材紹介にとどまらず、組織設計、機能と役割の定義、リソース配置方法の選択、適切な人材の採用・紹介、研修プログラムの構築、日本人管理者への支援、ベトナム人後継人材の育成までを一連のプロセスとして捉える。優れた候補者であっても、周囲の仕組みが整っていなければ力を発揮できないPMIに適したアプローチである。
第二の強みは、一人の担当者を配置しながら、その背後に組織全体を置けることである。顧客には明確な窓口があり、その窓口は社内のプロセス、文書、マニュアル、専門家を活用できる。人員変更が必要になっても、知識と方法を組織に残し、後任者へ引き継げる体制を整える。顧客側でも情報を継続的に利用できるようにすることが重要である。
第三の強みは、経営レベルで日越を橋渡しする能力である。ONE-VALUEは、日本企業が細部、承認、リスク管理を重視する理由を理解している。同時に、ベトナム人材が収入、昇進、権限、成長速度に何を期待するかも理解している。そのため、顧客が自社のアイデンティティを失わずに制度を調整できるよう支援できる。
第四の強みは、大企業から中小企業まで、さまざまな日本企業を支援してきた経験に加え、公的機関が実施する企業支援事業に参画した経験を持つことである。多様な事例を見てきたからこそ、管理者のローテーション、現地人材のキャリア上の限界、教育を伴わない昇進、親会社と現地法人のずれといった、繰り返し現れるパターンを認識できる。
第五の強みは、根本原因まで掘り下げる問題解決思考である。顧客が「経理担当者が必要だ」「総務担当者が必要だ」と言ったとき、次に問うべきは給与と入社日だけではない。誰が指示を出すのか、どのシステムを使うのか、フルタイムに足る業務量があるのか、日本向けとベトナム向けの報告はどう異なるのか、そのポジションを将来どのように発展させるのかまで確認する。この問い方によって、目の前の症状だけを処理し、原因を残してしまうことを避けられる。
これらの支援を支えるのが、M&Aの検討段階と投資後の経営をつなぐ視点である。ONE-VALUEは、事業・人事面のDDで得られた知見を、経営体制、重要人材の配置、引継ぎ、現場の運営方法の検討へつなげる。必要に応じて財務・税務・法務の専門家とも連携し、各分野の検討結果を顧客の意思決定に結び付ける。
また、自社の事業と日越の組織を立ち上げ、採用、育成、役割分担を構築してきた経営経験も、支援の基盤となっている。制度上の整合性とともに、実際に誰が動かすのか、どのような反応や負担が生じるのかまで考え、実行可能な形に整えることを重視している。
PMIまで支援できることが、ONE-VALUEの起用理由になる
こうした能力は、実際のアドバイザー起用理由にもつながっている。海外投資を支援する機関との面談では、ONE-VALUE側から、買手が既に投資候補先を把握していたにもかかわらず、投資後の支援を見据えて当社を起用した事例を紹介した。
以下は、その面談記録に基づき、企業名や案件を特定し得る数値を伏せて整理したものである。顧客の評価は、面談中に当社側が紹介した内容の要旨として記載する。
長年の取引関係を資本提携へ発展させる、日系物流企業の事例
一つ目は、ベトナムの物流企業と長年にわたり代理店契約に基づく取引関係を築いてきた日系物流企業の事例である。買手は、相手企業のサービスや取引実績を理解したうえで、その関係を資本提携へ発展させることを検討していた。
この案件では、投資候補先を新たに紹介することが、ONE-VALUE起用の出発点ではなかった。顧客は既に相手企業を知っており、それでも当社をアドバイザーとして選んだ。
面談記録で紹介された起用理由は、ベトナム市場への理解と交渉対応への期待、そして、出資後もPMIを支援できる体制が見えたことである。顧客の評価の要旨は、長年付き合っている相手への投資であっても、出資後の支援まで期待できることに価値がある、というものであった。
取引先としての信頼関係があっても、株主として経営に関与する段階では、報告、承認、役割分担などを改めて整理する必要がある。この事例は、企業同士がよく知り合っている案件でも、投資後の運営を支える能力がアドバイザー選定の重要な要素になることを示している。
既存出資先への経営関与を深める、プラスチック製造分野の事例
二つ目は、多数の従業員を抱えるベトナムのプラスチック製造企業について、日系の買手企業が既存の少数持分出資から過半数取得を目指す事例である。以前から出資関係はあったものの、経営への関与を深める段階で、新たな体制をどのようにつくるかが課題となっていた。
この案件では、経営陣や営業責任者の役割変更が、売上や顧客関係にどのような影響を及ぼすか、後任にどのような能力が必要かといった検討が求められた。組織図上で役職を置き換えるだけでは、事業の継続性を判断できないためである。
ONE-VALUEは、こうした経営体制の変更に伴う影響や、後任に必要な人物像の検討を含む相談を受けており、面談では、PMIも当社に依頼することを前提とした案件として紹介している。
この事例で求められたのは、調査結果を、経営者が実際に判断できる情報へ変えることである。現経営陣を変更した場合の影響、引継ぎの必要性、新体制に求める役割まで具体化することが、投資後を見据えた支援となる。
これらの事例に共通するのは、ONE-VALUEに対し、投資判断とその後の組織運営を継続して支える役割が期待されていることである。PMIへの対応力は、投資後に必要となるサービスであると同時に、投資前の段階でアドバイザーを選ぶ理由にもなっている。
PMI段階に適した人材ロードマップ
まず、企業は必要な機能をすべて特定する。ただし、各機能を直ちに採用ポジションへ置き換えてはならない。中核業務、支援業務、特定の時期にだけ発生する業務を明確に分類する。
次に、業務量が十分でない機能、または複数の専門性を必要とする機能には、主担当者を置いた外部チームを活用できる。最初から記録、報告、引継ぎの方法を定め、知識が組織に帰属するようにする。運営と並行して、どの役割を内製化するか、ベトナム人材にどの能力を構築するか、どの権限を移譲できるかという目標組織を設計する。
研修は実際の役割を基礎とし、事業計画、指標、報告方法、受講者が直面している実務上の状況と結び付けなければならない。業務量を把握できるだけの期間が経過した後、外部委託、ハイブリッド、社内採用の各モデルを再評価する。役割、管理者、プロセス、キャリアパスを具体化したうえで、必要な採用を進める。
このロードマップにより、企業は早い段階で固定的な組織構造に縛られずに済む。また、外部パートナーは、能力を社内チームへ段階的に移管できる。外部委託は、組織を構築する過程の一段階となる。
進捗を確認する際には、採用人数や研修の実施回数に加え、重要人材の定着、現地管理職が判断できる業務の範囲、日本本社への報告の適時性、引継ぎの完了状況などを確認することが有効である。経営者と現場双方の意見を聞きながら、制度が実際に機能しているかを評価する必要がある。
「ベトナムに進出する」から「ベトナムで成長する」へ
かつて、多くの日本企業は、どのようにベトナムへ進出するかを主要な問いとしていた。すでに進出した企業が増え、事業年数も長くなる中、次の段階で問われるのは、ベトナムでどのように成長し続けるかである。
成長を、任期付きで派遣される少数の日本人だけに依存することはできない。自律的に運営し、新たな事業を生み出しながら、グループのアイデンティティを維持できる現地組織が必要である。そのためには、ベトナム人材のキャリアパス、管理職育成制度、知識を保持する仕組み、日本本社とベトナム法人が持続的に連携するモデルが求められる。
だからこそ、PMIと人材は切り離せない。取引は書面上で完了できても、新しい組織が戦略を実行して初めて投資価値が生まれる。組織体制は承認できても、社員が役割を理解し、能力と意欲を持ち、適切な権限を与えられて初めて、その組織は実際に機能する。
ONE-VALUEの強みは、能力を組織化する力にある
PMIの現場でしばしば問われるのは、すぐに人材を採用すべきか、それとも立ち上げ期には外部サービスを利用すべきかという、極めて具体的な問題である。しかし掘り下げると、この問いはベトナムにおける日本企業の経営課題全体へ広がる。組織をどこまでスリムにするか、どの機能を中核とするか、知識をどう残すか、ベトナム人材をどこまで育成するか、そして日本の基準と現地の実情を誰がつなぐのか、という課題である。
ONE-VALUEの強みは、組織設計、業務運営支援、人材配置、管理職育成、キャリアパス構築、日越連携を、一つの統合的な解決策として組み合わせられる点にある。必要な人材を適切な時期に、適切な形で組織化し、人が替わっても運営を継続できる基盤を企業とともにつくることである。
投資後まで伴走できる体制を理由に当社が起用された事例は、企業が求めている支援の範囲を示している。投資候補先を知り、取引条件を整えることに加え、その先の経営と組織を具体的に考えられることが重要なのである。
これからの段階において、ベトナムで活動する日本企業の優位性は、資本、技術、ブランドに加え、それらを生かせる組織によって支えられる。日本人とベトナム人が共通の目標を理解し、共に将来像を描き、戦略を成果へ変える能力を備えた組織を構築できるかどうかが、持続的な競争力を左右する。それこそが、人材面のPMIの本質である。
