はじめに:ベトナムM&Aにおける情報の非対称性の実態
ベトナムM&Aは、2025〜2026年にかけても、市場参入手段として高い関心を集めている。2026年初に公表されたJETROの調査によれば、ベトナムに進出している日系企業の56.9%が、今後1〜2年以内に事業拡大を計画しており、2年連続でASEAN内の最高水準となった。これは、ベトナムにおける投資機会、資本提携、企業買収への関心が依然として強いことを示している。

一方で、多くの案件では、当初想定していた品質に合うパートナーや対象企業を見つけられず、問題が生じることがある。特にベトナムの民間企業、中でも中小企業では、公開情報が限られており、法務、財務、実際の運営に関する情報が、企業紹介資料と完全には一致しない場合がある。
そのため、ベトナムM&Aにおける信用調査は、デューデリジェンスより前に実施すべきである。信用調査は、初期段階で対象企業をふるい分けるためのプロセスであり、「この企業は本格的なデューデリジェンスへ進む条件を満たしているのか」という最も重要な問いに答える役割を持つ。
本記事では、日本企業が信用調査を重視すべき理由と、信用調査の進め方を解説する。
理由1:実行可能性の低い対象企業を早期に除外し、コストと時間を最適化できる
信用調査の最も実務的な価値は、日本企業が財務・法務・税務デューデリジェンスに大きな予算を投入する前に、基準を満たさない対象企業を早期に除外できる点にある。
M&Aにおける本格的なデューデリジェンスには、通常、複数の専門家や関係者が関与する。
- 弁護士
- 監査人
- 税務アドバイザー
- 財務アドバイザー
- 買い手側の社内チーム
初期スクリーニングを通過していない企業に対して早い段階から本格的なデューデリジェンスを実施すると、費用と時間が非効率な投下になりやすい。信用調査の本質は、事前スクリーニングである。すなわち、対象企業の信頼性を短期間で確認し、取引を継続すべきか中止すべきかを判断するための作業である。
実務上、重要な問題は初期段階で把握できることが多い。例えば、以下のような点である。
- 法人格や登記情報が不明確である
- 信用履歴が弱い
- 財務データに一貫性がない
- 事業運営が経営者個人に過度に依存している
こうした兆候が早期に確認されれば、日本本社の取締役会や投資判断部門は、より速やかに判断を下すことができる。完了可能性の低い案件に追加の人員・費用・時間を投入することを避けられるためである。
これが、ベトナムでの投資前調査を、本格的なデューデリジェンスに入る前に行うべき理由である。
要するに、信用調査は単にアドバイザー費用を節約するためのものではない。より重要なのは、意思決定にかかる時間を短縮し、誤った対象企業を追い続けることで生じる機会損失を減らす点にある。
理由2:経営陣の信用、法令遵守、レピュテーションリスクを把握できる
ベトナムM&Aでは、リスクの中心が財務諸表そのものではなく、経営陣や企業の運営方法にあるケースも少なくない。
特に民間企業やファミリービジネスでは、オーナー経営者の影響力が、顧客、取引先、運営上の関係、行政対応力に大きく関わっている場合がある。つまり、書類上は良好に見える企業でも、その運営ネットワークが特定の個人に強く依存していれば、M&A後に同じ価値を維持できるとは限らない。この点は、財務諸表だけでは十分に反映されない。
したがって、ベトナムにおける反社会的勢力チェックや法令遵守調査は、単なる個人情報確認にとどめて考えるべきではない。投資家は、以下のような複数のリスク層を確認する必要がある。
- オーナー経営者および経営陣の信用力
- 法令違反に関する兆候
- 労務、環境、税務に関するリスク
- 個人的関係や行政関係への依存度
日本企業にとって、これは特に重要な論点である。法令遵守上の問題を持つ案件は、対象企業だけでなく、日本本社の内部承認プロセス、次の事業拡大計画、ベトナム市場でのブランドイメージにも影響を与える可能性がある。

理由3:隠れ債務や潜在的な法的紛争を早期に発見できる
ベトナムM&Aで信用調査を行う重要な理由の一つは、売り手の資料に十分反映されていない実質的な義務を早期に把握できる点である。
ベトナムでは、情報の非対称性が以下のような領域で発生しやすい。
- 十分に反映されていない債務
- 回収可能性の低い売掛金
- 社内金融や内部貸付
- 簿外債務
これらの問題は、売り手が提供する財務諸表だけを読んでいても見つけにくい。表面上は通常通り事業を継続している企業でも、内部には企業価値評価や取引構造に直接影響する義務が存在している場合がある。
さらに、信用調査は以下のようなリスクを早期に把握するうえでも有効である。
- 民事紛争
- 契約紛争
- 担保資産
- 土地使用権
- 工場、オフィス、倉庫などの実際の運営状況
これらは、ベトナムで運営資産を持つ企業を買収する際に特に重要な確認事項である。法務書類や企業紹介資料だけを見ると、投資家は資産の質や買収後の利用可能性を実態以上に高く評価してしまう可能性がある。
取引実務の観点では、こうした義務を発見するのが遅れると、契約交渉や取引構造の再設計が必要となり、案件全体が長期化する。その結果、意思決定の効率も低下する。
日本企業向けの解決策:2段階の調査プロセス
日本企業にとって、安全性の高いアプローチは、2段階の調査プロセスを採用することである。
ステップ1:予備的な信用調査
この段階の目的は、本格的なデューデリジェンスに大きな予算を配分する前に、対象企業を迅速にスクリーニングすることである。主に以下の情報をクロスチェックする必要がある。
- 会社情報:法務情報、財務データ、商品・サービス内容
- 市場分析:顧客、取引先、輸出入活動
- 戦略的ポジション:市場における位置づけと成長可能性
- 財務実績とリスク:財務諸表、財務健全性
- 法務・信用分析:メディア評価、訴訟、法務リスク
ONE-VALUEは、これまで多数の信用調査報告書を作成してきた。以下は、ONE-VALUEが実施している信用調査報告書の項目例である。詳細な項目一覧を確認したい場合は、ONE-VALUEまで問い合わせいただきたい。

ステップ2:本格的なデューデリジェンス
予備的な信用調査を通過した対象企業のみ、本格的な財務・法務・税務デューデリジェンスおよび詳細交渉へ進むべきである。
この進め方により、日本企業は経営資源をより効率的に活用できる。また、完了可能性の低い対象企業に深く入り込みすぎるリスクを抑えられる。
※画像挿入:日本企業向けベトナム企業買収前の2段階調査チェックリスト
もう一つ重要なのは、公開情報や売り手が提供する資料だけに依存しないことである。ベトナム市場では、依然として情報の非対称性が大きい。そのため、日本企業は、ベトナムの商習慣、法務環境、運営実態を踏まえて情報を収集・解釈できる現地アドバイザーと連携することが望ましい。
ONE-VALUEの信用調査・M&A支援サービス
日本企業の投資目線に合わせた信用調査・対象企業調査
ONE-VALUEは、法務書類や基本的な財務データを確認するだけではない。運営上の兆候、経営陣の信用力、取引先の状況、売上モデルの不自然な点、債権債務、資産、買収後の関係維持可能性などを分析する。
このアプローチは、公開情報が限られている案件に特に適している。
信用調査とM&Aアドバイザリー、デューデリジェンスを接続
対象企業がスクリーニングを通過した場合、ONE-VALUEは、対象企業探索、予備的デューデリジェンス、M&Aアドバイザリー、企業価値評価、デューデリジェンス、交渉支援まで継続して対応できる。
これにより、日本企業は、「初期確認」と「実際の取引検討」の間で情報や判断が分断されることを避けられる。
まとめ
2026年も、ベトナムは日本企業から高い関心を集める市場である。そのなかで、信用調査は、本格的なデューデリジェンスを実施する前の最初のスクリーニング層として位置づけるべきである。
信用調査により、日本企業は、対象企業が取引を継続する条件を満たしているかを早期に判断できる。また、法務、財務、法令遵守、運営に関するリスクを事前に把握し、無駄なコストと時間を抑えることができる。
ベトナムM&Aを検討する日本企業にとって、信用調査を早期に実施することは、案件の成功確率を高めるだけでなく、投資判断の質を高めるための重要な一歩である。
ONE-VALUE株式会社(ONE-VALUE Inc.)について
ONE-VALUEは、1,000社以上の日本企業のベトナム進出を支援してきた総合コンサルティングファームです。
- 市場調査・戦略立案: 深い市場理解に基づくロードマップ策定。
- M&Aアドバイザリー: ターゲット選定からPMIまでの一貫支援。
- 販売・マーケティング代行: 代理店開拓から実務運用まで。
- 撤退支援(事業整理・清算支援): 事業整理、法人解散、清算手続などのサポート。
- エキスパート・プラットフォーム: 32分野5,000名以上の専門家への直接アクセス。詳細については、こちらよりご確認いただけます。
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