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ベトナム 小売市場

ベトナム小売規制、10月18日施行――外資企業は「出店許可の緩和」を成長戦略にどう変えるか

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ベトナムの消費市場は、いまも高い成長を続けている。国家統計局によれば、2026年1~8月の小売・消費サービス売上は5,235.5兆ドンで前年同期比13.3%増、物価要因を除いても7.6%増だった。商品小売だけでも3,947.6兆ドン、12.8%増である。市場の拡大を示す数字は十分にそろっている。

ただし、日本企業にとって重要なのは「市場が伸びているか」だけではない。誰が輸入し、誰が卸し、誰が最終消費者へ販売するのか。何店舗まで、どの速度で増やせるのか。代理店、EC、実店舗をどう組み合わせるのか。ローカル小売企業を買収した場合、既存店舗をどのように継続させるのか。成長市場ほど、市場アクセスの設計が経営課題になる。

2026年9月3日に公布された政令342/2026/NĐ-CPは10月18日に施行され、外資企業の商品の売買・流通、小売店舗設置に関する従来の政令09/2018/NĐ-CPを置き換えた。外資小売の許認可を簡素化する一方で、大規模小売網や大型デジタルプラットフォームなどには国家安全保障上の意見聴取を導入した。今回の変更を「規制緩和」とだけ読むのは不十分である。どの投資家が、どの店舗規模・店舗数で、どの参入モデルを使うかによって規制コストが変わる。規制が戦略変数になったと捉えるべきだ。

ベトナムでは「市場が伸びているから出る」だけでも、「規制が緩和されたから出店する」だけでも不十分です。重要なのは、制度変更によって新しく取れるようになった選択肢を、事業モデルと投資条件に変換することです。日本企業は法務を法務だけに任せ、事業戦略を事業部だけで作る傾向がありますが、海外投資では両者を切り離すほど意思決定が遅くなります。ONE-VALUEとしては、規制を説明するだけでなく、市場・競合・パートナー・M&A候補・収益モデル・交渉条件を一つの投資判断につなげるところまで支援したいと考えています。(弊社代表Hoa)

「外資小売=ENT」という理解は、日本企業について更新が必要

外資小売の議論で長く使われてきた言葉が、経済需要審査(Economic Needs Test、ENT)である。従来、外資企業が二店舗目以降の小売店舗を設ける際には、一定の場合を除き、地域需要、既存店舗や伝統市場への影響、市場安定性などについて審査を受ける必要があった。結果として、店舗拡大のスケジュールを読みづらくする要因の一つになっていた。

政令342は、ベトナムがENT撤廃を約束している国際協定の締約国・地域の投資家について、追加店舗のENT免除を明確化した。JETROは2026年10月2日、日本を含むCPTPP加盟国の投資家について、追加の小売店舗を設ける際にENTを適用しないことが明確になったと整理している。日本企業にとっては大きな変更である。

ただし「日本企業なら何でも自動的に簡単になる」という意味ではない。実際の投資主体がどの国・地域の投資家に該当するか、持株会社を含む資本構成、適用する条約、商品の種類、店舗の用途や面積などは個別に確認する必要がある。さらに、小売店舗の立地は土地、都市計画、投資、建設、消防、交通、安全・衛生など別の法令にも適合しなければならない。

私は、この改正の意味を「ENTという壁が一つ消えた」とだけ見るべきではないと思う。むしろ、出店スピードを前提に事業計画を組み直せることが重要だ。年間3店舗しか増やせない前提と、10店舗まで増やせる前提では、本部人員、物流、店舗開発、在庫、広告投資の最適規模まで変わる。法務の結論が、投資計画の前提条件になる。

この図表では、本文の論点を経営判断の順番に整理する。制度そのものではなく、出店速度・チャネル・投資方法・契約条件への影響を見ることが重要である。

出典:ベトナム国家統計局、JETRO、政令342/2026/NĐ-CPをもとにONE-VALUE作成

M&Aでは「買えるか」より「買った翌日から売れるか」を見る

今回の改正でM&A担当者が特に確認すべきなのが、国内小売企業が外国投資を受けて外資企業となる場合の移行ルールである。政令342では、外資化した企業は必要なBusiness LicenseやRetail Outlet Licenseを申請しなければならない一方、既存店舗は、M&A承認に関する文書の日から最長12カ月、必要な許認可取得を進めながら営業を継続できる。

これは、買収後のキャッシュフローを考える上で非常に重要だ。50店舗を持つローカル企業を買収したとしても、外資化した瞬間に全店舗の営業が止まるなら、買収前のEBITDAをそのまま評価に使えない。逆に、12カ月の移行期間があるなら、店舗ごとのライセンス取得をDay 1からDay 365のPMI計画に組み込むことができる。

だから法務DDは「許認可に不備がある/ない」を一覧化するだけでは足りない。どのライセンスをクロージング前の前提条件(Condition Precedent)にするか。どれをクロージング後の誓約事項とするか。sellerにどの程度の協力義務を課すか。期限までにライセンスが取れない場合の価格調整や長期停止条件を置くか。店舗の賃貸借契約、消防、食品安全、看板、倉庫等で支配権変更時の問題がないか。これらをSPAとPMIへ接続する必要がある。

ベトナム企業の買収では、数字以外の情報がオーナーや現場に分散していることも多い。店舗別売上、賃料、実質的な仕入条件、関連当事者との取引、名義、行政とのやり取りを拾い、企業価値と取引確実性にどう影響するかを整理する。その意味でM&Aは「会社を買う」のではなく、「営業を継続できる仕組みを買う」作業でもある。

この図表では、本文の論点を経営判断の順番に整理する。制度そのものではなく、出店速度・チャネル・投資方法・契約条件への影響を見ることが重要である。

出典:政令342/2026/NĐ-CP、Baker McKenzieをもとにONE-VALUE作成

出店規制が緩和されても「良い店舗」が増えるわけではない

規制が緩和されれば店舗数を増やしやすくなる。だが、「出店しやすい」と「儲かる」は別問題である。小売の収益性は店舗数ではなく、店舗単位の採算で決まる。

最低限見るべき指標は、店舗別売上、客数、客単価、粗利率、SKU別回転率、在庫日数、廃棄率、賃料売上比率、人件費率、物流費、販促費、店舗CAPEX、投資回収期間である。ECを組み合わせるなら、顧客獲得コスト(CAC)、リピート率、配送費、返品率、プラットフォーム手数料も加わる。

2026年1~8月の商品小売売上は全国で12.8%増えたが、主要地域ではダナン14.2%、クアンニン13.9%、カントーとハイフォン13.1%、ハノイ12.8%、ホーチミン市12.2%と差がある。成長率が高い都市がそのまま最適立地という意味ではないが、「ベトナム=ハノイとホーチミン」という前提だけで全国展開を考える必要もない。市場規模、所得、競合密度、商業施設供給、物流、人材、ブランド認知を商圏単位で見る必要がある。

市場調査は市場規模を測るためだけに行うものではない。仮説を置き、消費者・競合・ディストリビューターへヒアリングし、候補商圏を確認し、小さくテストし、店舗別の採算を検証する。店舗数の目標を先に置くより、「何号店まで同じユニットエコノミクスを再現できるか」を確認する方が経営には役立つ。

この図表では、本文の論点を経営判断の順番に整理する。制度そのものではなく、出店速度・チャネル・投資方法・契約条件への影響を見ることが重要である。

出典:ONE-VALUE分析
ベトナムで店舗網拡大、商圏・競合分析、代理店/JV候補探索、ローカル小売企業のM&Aを検討する場合、ONE-VALUEでは市場調査から候補探索、BDD、企業価値評価、交渉、PMIまで一貫して支援できます。

ECの成長は「店舗不要」ではなく、チャネル設計を複雑にする

ベトナムではECも拡大政策が続く。商工省が2025年6月に承認した2026~2030年の国家EC発展計画では、EC小売売上を年平均20~30%成長させ、2030年に商品小売総額の20%へ高める目標を掲げた。70%の企業がECを活用し、EC取引の80%をキャッシュレス化する方向も示している。さらに、電子商取引法と政令248/2026/NĐ-CPは2026年7月1日に施行された。

しかし、ECが伸びるから実店舗が不要になるわけではない。オムニチャネル化すると、在庫配置、配送、返品、店舗受取、顧客データ、価格、会員制度、販促を一体で設計する必要がある。実店舗は販売場所であると同時に、ブランド体験、顧客獲得、受取・返品拠点、地域在庫の機能を持つ。

政令342は、一定の仲介ECプラットフォーム、EC機能を持つSNS、統合型ECプラットフォームなどもBusiness Licenseの対象として整理し、大規模デジタルプラットフォームを外国投資家が支配する場合などに安全保障上の意見聴取を求める仕組みを導入した。

したがって「店舗かECか」という二者択一で考えるべきではない。代理店でテストし、ECで売れるSKUと地域を確認し、ブランド体験が重要な都市から店舗を出すという順番もある。逆に、アフターサービスや試用が重要な商材なら初期から店舗を持つ方がよい。どのチャネルを自社で持ち、どこを外部へ任せるかを設計することが市場参入戦略である。

代理店販売から「市場を持つ」へ移るときの設計

日本企業がベトナムへ入る際、現地代理店を使うのは合理的な選択肢である。初期投資を抑え、輸入、物流、営業を現地側に任せられる。ただし、数年後に「最終顧客が見えない」「販売データが来ない」「競合品も扱っている」「地方へ広がらない」という問題が出ることも多い。

代理店契約は単なる販売委託ではない。顧客データ、販売地域、最低購入量、在庫、販促負担、下位代理店、オンライン販売、独占権、契約終了時の引継ぎを初期段階から設計しておく必要がある。市場が育った後には、代理店継続、複数代理店化、JV、一部内製化、代理店買収といった選択肢を比較できる。

このとき、交渉を「独占権を返してほしい」「価格を下げてほしい」だけにすると合意が難しくなる。全国独占を地域別に再設計する、特定チャネルを代理店へ残す、JV株主として参加してもらう、買収時に一部株式を残してもらう、業績連動対価を使うなど、価格以外の変数を増やす方が合意領域は広がる。

ベトナムのオーナー企業では、価格以外に従業員の雇用、ブランド名、家族の役割、売却後の在任期間、将来の成長余地が意思決定に影響することもある。相手が何を守りたいのかを理解せず、企業価値だけを議論しても取引は進まない。

大型化すると「安全保障」が新しい経営論点になる

政令342の特徴の一つが、安全保障に関する意見聴取である。一定の場合、許認可当局は公安省と国防省の意見を求める。対象には、一定の非条約投資家、大規模デジタルプラットフォームの支配、そして大規模な小売店舗網が含まれる。

店舗網については、全国で「500㎡未満の店舗100店」「500㎡以上3,000㎡未満の店舗50店」「3,000㎡以上の店舗30店」といった規模に達する場合、新規店舗や既存店舗継続の許認可で安全保障上の意見聴取の対象となる。

現在数店舗の企業には遠い話に見えるが、M&Aでは一気に閾値へ近づく。全国チェーンを買えば、Greenfieldで数年かけて店舗を増やす場合とは異なるタイミングで規制論点が発生する。だからM&Aの価値を「店舗数を時間ごと買える」と評価する一方、許認可、賃貸、在庫、人材、過去のコンプライアンスを同時に引き受けるコストも見なければならない。

Greenfieldはコントロールしやすいが時間がかかる。JVは現地資産を使いやすいが、意思決定権、追加投資、利益配分、デッドロック、Exitの設計が要る。M&Aは時間を買えるが過去の問題も買う。「どれが正解か」ではなく、速度、支配権、初期投資、顧客基盤、許認可、経営人材のどれを優先するかで選ぶべきである。

この図表では、本文の論点を経営判断の順番に整理する。制度そのものではなく、出店速度・チャネル・投資方法・契約条件への影響を見ることが重要である。

出典:政令342/2026/NĐ-CP、JETRO、Baker McKenzieをもとにONE-VALUE作成

規制変更を「投資委員会の言葉」に翻訳する

海外案件では、現地の法改正情報が本社の意思決定言語へ翻訳されないまま止まることがある。「ENT免除になりました」と報告しても、本社が知りたいのは、何店舗増やせるのか、何カ月短縮できるのか、投資額はいくらか、売上とEBITDAへどの程度影響するのかという点である。

例えば、ENT免除によって出店リードタイムが短くなるなら、年間出店数を何店から何店へ増やせるかを試算する。その場合、店舗CAPEX、運転資本、本部人員、物流容量、在庫はどれだけ必要か。本部固定費を吸収してEBITDAマージンは改善するか。大規模化により安全保障上の意見聴取が必要になるなら、何店舗目から追加リードタイムを織り込むか。

M&Aなら、既存50店舗を買う場合と5年間かけて50店舗を自社開発する場合のNPVを比較する。買収プレミアムを払っても市場参入速度の価値が上回るのか。不採算店舗を閉めた後の正常収益はいくらか。sellerが示すEBITDAからオーナー関連費用、一時収益、関連当事者賃料を正規化するといくらになるか。

法改正が経営判断になるのは、ここまで翻訳したときである。私は、日本企業が海外で意思決定を遅らせる原因の一つは、法務と事業を別々に考えすぎることにあると思う。法務の解釈を事業モデルへ、事業モデルを財務へ、財務を契約条件へつなげる必要がある。

この図表では、本文の論点を経営判断の順番に整理する。制度そのものではなく、出店速度・チャネル・投資方法・契約条件への影響を見ることが重要である。

出典:ONE-VALUE分析

日本企業がいま確認すべき5つのこと

第一に、現在の販売チャネルを可視化する。自社、代理店、下位代理店、EC、店舗のどこが最終顧客との接点を持っているかを確認する。

第二に、今後3~5年のチャネル構成を決める。代理店中心を続けるのか、自社販売を増やすのか、店舗を持つのか、M&Aで販売網を取得するのか。

第三に、規制と店舗採算を同時に検証する。許認可上可能でも儲からなければ意味がない。逆に採算が良くても店舗開発や許認可が遅ければ成長速度は上がらない。

第四に、M&A候補を早めに見る。良い会社が売りに出てから探すのでは遅い。オーナー企業では売却意思が公表される前から関係を作り、成長資本、JV、少数出資、買収など複数の入口を持つ方がよい。

第五に、交渉を価格だけにしない。企業価値、支払時期、業績連動対価、売主の残存出資、経営陣の残留、ガバナンス、独占交渉、クロージング条件、補償、PMI協力を一つのパッケージとして設計する。

まとめ:「ベトナムで売る」から「ベトナム市場をどう持つか」へ

政令342の施行は、ベトナム小売市場が突然自由化される日ではない。日本の投資家にとってENT免除が明確化されたことは追い風だが、店舗規模、チャネル、投資主体、買収後の許認可、大規模化した場合の安全保障審査など、確認すべき論点は残る。

一方で、制度変更によって新しい選択肢が生まれたことは確かだ。店舗を増やしやすくなった企業は、単純に出店数を増やすのではなく、商圏、店舗採算、EC、代理店、物流、M&Aを同時に設計できる。M&Aを使う企業は、既存店舗の移行期間をSPAとPMIへ織り込める。

ONE-VALUEがこの領域で支援したいのは、法律の解説そのものではない。必要に応じて法律専門家と連携しながら、市場調査、競合・商圏分析、参入形態の比較、代理店・JVパートナー探索、M&A候補のソーシング、BDD、企業価値評価、取引条件、交渉、PMIを一つの事業開発プロセスにつなげることである。

制度変更は、知っているだけでは競争優位にならない。競合より早く、具体的な店舗、パートナー、買収候補、収益モデル、投資条件へ変えられた企業が初めて優位に立てる。ベトナムで「商品を売りたい」から一歩進み、「ベトナム市場をどう持つか」。今回の政令342は、その問いを改めて考える良い契機だと考えている。

外部出典一覧

ベトナム政府/政令342/2026/NĐ-CP(2026年9月3日公布、10月18日施行)
https://vanban.chinhphu.vn/?classid=1&docid=219372&orggroupid=2&pageid=27160

JETRO/ベトナム、CPTPP加盟国向けに小売店舗追加の際のENT免除を明確化(2026年10月2日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/10/672e2624eb6dd541.html

National Statistics Office of Vietnam/Report socio-economic performance in August and 8 months of 2026
https://www.nso.gov.vn/en/data-and-statistics/2026/09/report-socio-economic-performance-in-august-and-8-months-of-2026/

Baker McKenzie/Vietnam: New Decree 342 Reshapes Vietnam Retail Licensing(2026年9月14日)
https://www.bakermckenzie.com/en/insight/publications/2026/09/vietnam-new-decree-342-reshapes-vietnam-retail-licensing

ベトナム商工省/Decision 1568/QĐ-BCT National E-commerce Development Plan 2026–2030
https://moit.gov.vn/tin-tuc/phe-duyet-ke-hoach-tong-the-phat-trien-thuong-mai-dien-tu-quoc-gia-giai-doan-2026-2030.html

ベトナム政府/Decree 248/2026/NĐ-CP on E-commerce
https://vanban.chinhphu.vn/?docid=218747&orggroupid=2&pageid=27160

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