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循環型社会に向かうベトナムの環境法規制と将来展望――「制度先行」のいま、日系企業に求められる技術協力と研究連携

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ベトナムでは、循環経済をめぐる制度整備が急速に進んでいる。2020年環境保護法は拡大生産者責任(EPR)を法制化し、2024年以降、製品・包装カテゴリーごとにリサイクル責任が段階的に実施段階へ入った。2025年1月には、2035年までの循環経済National Action Planが承認された。さらに2026年5月には、EPRに特化した政令110/2026/NĐ-CPが施行され、制度は「導入するかどうか」から「どう運用し、どう検証するか」という段階へ移っている。

一方、制度と現場の間には大きな距離がある。UNDPは2025年、ベトナムで1日約6万8,000トンの固形廃棄物が発生し、約70%がなお埋立処理されていると紹介した。回収、選別、再生材の品質管理、データの追跡、認可事業者の能力、人材育成といった実装基盤は、制度が求める速度で一様に整っているわけではない。

この「制度先行ギャップ」は、日系企業にとって単なる規制リスクではない。リサイクル設備、廃棄物発電、選別・計測、モニタリング、再生材評価、共同研究、実証、人材育成など、日本企業が技術と運営ノウハウを提供できる領域が広がることを意味する。本稿では、制度の現在地と実装課題を整理し、日系企業がどこで協力・事業参画できるかを考える。

ベトナムの循環経済は「理念」から「企業義務」へ

ベトナムの循環経済を理解する出発点は、2020年環境保護法(Law No.72/2020/QH14)である。同法は2022年1月1日に施行され、第54条で製品・包装のリサイクル責任、第55条で廃棄物処理への責任を生産者・輸入者に課す枠組みを設けた。これがベトナム版EPRの基本法である。

政令08/2022/NĐ-CPは、対象、責任の履行方法、報告などを具体化した。2025年の政令05/2025/NĐ-CPで一部が改正され、2026年にはさらに重要な更新があった。4月1日に公布された政令110/2026/NĐ-CPが5月25日に施行され、EPRを製品・包装のリサイクル責任と廃棄物処理責任に特化して整理したからだ。したがって、2026年10月時点で日系企業が制度対応を検討する際、政令08/2022と05/2025だけを見て判断するのは十分ではない。

制度の方向性をさらに明確にしたのが、2025年1月23日のDecision 222/QĐ-TTgである。政府は2035年までのNational Action Plan on Circular Economyを承認し、資源効率、再利用・再資源化、デジタル技術、グリーン金融、技術革新を組み合わせて循環経済を実装する方針を示した。2035年には、ベトナムがASEAN経済共同体における循環経済のイノベーション、技術・設備・サービス供給、投資動員の拠点の一つになるという目標まで掲げている。

この目標は野心的である。重要なのは、環境規制を「廃棄物を正しく捨てるルール」とだけ見ないことだ。製品設計、材料調達、包装、回収、再生材利用、データ管理まで企業活動全体へ責任が広がっている。

この図表では、本文の論点を意思決定の順番に整理する。個別の制度・技術を単独で見るのではなく、前後工程とのつながりを見ることが重要である。

出典:ベトナム環境保護法72/2020/QH14、政令08/2022/NĐ-CP、05/2025/NĐ-CP、110/2026/NĐ-CP、Decision 222/QĐ-TTgをもとにONE-VALUE作成

「制度先行ギャップ」は、規制が失敗しているという意味ではない

制度が先に整い、現場能力が後から追いつく状況は、新興市場では珍しくない。ベトナムでも問題は「法律があるのに何も動いていない」という単純な話ではない。むしろ、制度が企業・自治体・処理事業者へ新しい需要を生み、その需要に応える供給能力が形成途上にあると捉える方が正確である。

UNDPは2025年10月、ベトナムでは1日約6万8,000トンの固形廃棄物が発生し、その約70%がなお埋立処理されていると紹介した。都市化が進み、人口が1億人を超える中で、廃棄物処理への負荷は今後も高まる。

同時に、EPRを機能させるには単に「リサイクル率」を設定すればよいわけではない。回収された物がどの施設で、どの工程を通り、どれだけ再生されたかを追跡し、結果を検証できる仕組みが必要になる。2025年9月にJICAが公示したベトナムの廃棄物管理・循環経済案件でも、EPR進捗、廃棄物データ、資源トレーサビリティ、デジタルプラットフォームの活用可能性が調査項目に挙げられている。これは、制度の次の課題が「実装と検証」であることを示している。

なお、廃棄物処理については、資料ごとに対象地域、都市・農村、廃棄物種、処理区分が異なる。そこで本稿では、出所が揃わない「非衛生埋立55%、野外焼却20%、適正処理10%」といった数値を全国一律の現況値としては採用しない。数字の大きさより、回収・選別・再資源化・データ検証の各段階で能力差が存在することを実務上の論点として扱う。

この図表では、本文の論点を意思決定の順番に整理する。個別の制度・技術を単独で見るのではなく、前後工程とのつながりを見ることが重要である。

出典:UNDP、JICA、ベトナム政府公開資料をもとにONE-VALUE作成

日系企業の商機は「リサイクル機械を売る」だけではない

循環経済の需要を、単純な設備輸出の市場として見ると機会を狭く捉えることになる。実際には、分野ごとに必要な技術と研究テーマが異なる。

プラスチック・包装材では、回収・選別、洗浄、再生材の品質安定化、低価値プラスチックの用途開発が課題になる。EPRが本格化すれば、市場投入量と回収・再生量を結び付けるトレーサビリティも重要になる。

電子機器やEVバッテリーでは、安全な回収・保管、破砕・前処理、有価金属の回収、残存性能の評価、二次利用、火災・有害物質管理などが必要になる。VietBizでも2026年5月、政令110/2026/NĐ-CPにおけるEV・HV用バッテリーの必須リサイクル率の扱いを報じている。制度上の率が低い期間であっても、将来の廃棄量増加を見越した技術蓄積は必要だ。

繊維では、素材識別、混紡材の選別・繊維化、再生糸の品質評価が課題になる。食品・有機廃棄物では、分別、異物除去、堆肥化、バイオガス化、臭気管理、製品としての肥料品質など、単なる処理能力とは異なる技術が必要になる。

したがって、日本企業が検討すべきなのは「どの装置を販売するか」より、「どの廃棄物フローのどこを改善し、その成果をどう測定するか」である。装置、保守、データ、研究、運営を組み合わせた方が、価格競争に陥りにくい。

この図表では、本文の論点を意思決定の順番に整理する。個別の制度・技術を単独で見るのではなく、前後工程とのつながりを見ることが重要である。

出典:Decision 222/QĐ-TTg、UNDP、VietBiz既存記事等をもとにONE-VALUE作成

ベトナムでリサイクル設備・環境技術の販売先、実証先、大学・企業パートナーを探す場合、ONE-VALUEでは市場構造調査、候補企業探索、現地ヒアリング、PoC設計まで支援できます。

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技術協力は、実証と人材育成まで含めて設計する

日本とベトナムの環境分野の協力にはすでに複数の蓄積がある。JICAは2022年12月、ビンズオン省のWaste to Energy and Waste Treatment ProjectでBIWASE向け700万米ドルの融資契約を締結した。事業には日量840トンのコンポスト施設と日量200トンの廃棄物発電焼却施設が含まれ、廃棄物処理能力の拡大と循環経済への貢献を狙う。

また、日本の環境省はベトナムとの政策対話、海洋ごみの共同モニタリング、廃棄物管理に関する研修、3Rや廃棄物発電の案件形成などを継続してきた。2025年度にも海洋ごみ共同パイロットモニタリングや人材育成研修が実施されている。

他国との連携も示唆に富む。UNDPが紹介したオランダ・ベトナムのACE-Bizでは、プラスチック、包装、廃棄物・排水、繊維などを対象に、企業変革、ガイドライン、能力開発、技術移転を組み合わせている。2025年には企業間MoUや意向書も生まれ、大学・企業・政府機関をつなぐ形で技術を現場へ落とし込んでいる。

日本企業にとっての示唆は明確だ。ベトナムでは「完成した技術を販売する」だけでなく、現地廃棄物の組成、原料品質、運営能力、料金水準に合わせて技術を調整する共同研究・PoCが重要になる。日本で成立した設備仕様や採算モデルを、そのまま移植しても機能するとは限らない。

資金面でも、選択肢を一つに固定しない方がよい。Decision 222/QĐ-TTgは、国家予算だけでなく、国際支援、ODA・優遇融資、グリーンクレジット、グリーンボンド、FDI、官民連携など複数の資金源を想定している。技術実証の段階では公的支援を活用し、商用化段階では現地事業者との共同投資や民間融資へ移行するなど、フェーズごとに資金調達を設計する余地がある。

その際、補助金やODAの採択自体を目的にしないことが重要だ。公的支援が終了した後も、処理料金、再生材販売、エネルギー販売、EPR関連収入などで運転費と更新投資を賄えるかを確認する必要がある。実証のKPIには技術性能だけでなく、1トン当たり処理費、回収率、再生材歩留まり、販売単価、設備稼働率、必要人員など事業指標も入れておくべきである。

この図表では、本文の論点を意思決定の順番に整理する。個別の制度・技術を単独で見るのではなく、前後工程とのつながりを見ることが重要である。

出典:JICA、UNDP、日本環境省公開資料をもとにONE-VALUE作成

共同研究は「研究で終わらせない」事業設計が必要

大学・研究機関との共同研究は、ベトナムの循環経済分野では有効な入口になり得る。ただし、研究成果だけを目的にすると商用化へつながりにくい。

初期段階で確認すべきなのは、対象となる廃棄物の量と品質、原料を誰が供給するか、実証設備をどこに置くか、分析・評価を誰が担うか、知的財産をどう扱うか、実証後に設備投資する主体は誰かである。

特に再生材ビジネスでは「作れる」だけでは不十分だ。再生材の品質が需要家の仕様を満たし、価格がバージン材との比較で成立し、継続的に原料を集められる必要がある。そのため、大学だけでなく、排出企業、回収業者、リサイクラー、材料ユーザーを実証段階から巻き込む方がよい。

研究テーマも、基礎性能だけでなく、事業化条件へ近づける必要がある。例えばプラスチックなら再生材の物性と用途、繊維なら混紡率と再生糸品質、バッテリーなら回収安全性と金属回収効率、有機物なら投入物の変動と肥料品質を評価する。研究成果を「設備仕様」「標準作業」「品質基準」「採算モデル」に変換できれば、技術協力が事業へ移行しやすくなる。

この図表では、本文の論点を意思決定の順番に整理する。個別の制度・技術を単独で見るのではなく、前後工程とのつながりを見ることが重要である。

出典:ONE-VALUE分析

日系企業は4つの関与類型から選べる

日系企業の関与は大きく四つに分けられる。

第一はEPR対応・リサイクル受託である。対象判定、申告、証跡整備、回収・再資源化事業者の探索など、制度対応に直接関係する。法令更新が続くため、規制調査と現地事業者の実態確認を組み合わせる必要がある。

第二は処理技術・プラント供給である。選別、洗浄、再資源化、廃棄物発電、計測・モニタリングなどを提供する。ただし、設備価格だけではなく、処理量、原料組成、電力・用地、運営人員、保守部材、最終処分先まで含めて事業性を確認する。

第三は共同研究・実証である。市場が成熟していない分野ほど、最初から大型投資をするより、現地大学、企業、行政と小規模実証を行い、技術適合性と採算性を確認する方が合理的だ。

第四はJV・M&Aを含む事業参画である。処理会社、環境設備会社、回収ネットワーク、材料再生企業などに出資し、現地能力を取り込む方法である。買収時は設備だけでなく、許認可、排出元との契約、原料調達、土地、処理実績、環境コンプライアンス、主要技術者をDDで確認する必要がある。

制度先行の時期こそ、技術の「現地適合」を検証する好機

制度が未成熟な市場では、制度が固まるまで待ちたいという考え方もある。しかし、循環経済では待つことにもコストがある。回収網、行政・大学との関係、排出企業との契約、実証データは短期間では構築できないからだ。

一方で、制度があるからといって大規模設備投資を急ぐのも危険である。EPRの対象や必須率、リサイクル費用、認証・検証方法は今後も見直される可能性がある。地域によって廃棄物量や回収体制も異なる。

そこで現実的なのは、規制調査と市場調査を行い、原料フローを把握し、小規模な実証で処理性能・品質・コストを検証し、その後に設備投資やJVへ進む段階的なアプローチである。

ベトナム政府が目指すのは、2035年に循環経済の技術・設備・サービス供給拠点の一つになることである。その目標を実現するには、海外技術を購入するだけでなく、現地企業と大学が技術を学び、改良し、運営できる能力を持つ必要がある。日本企業に求められる価値も、機械の販売から、技術移転、共同研究、人材育成、運転改善へ広がっていくだろう。

まとめ:環境規制を「コスト」ではなく事業開発の入口として読む

ベトナムの循環経済政策は、環境保護法2020、政令08/2022、05/2025、110/2026、そしてDecision 222/QĐ-TTgによる2035年National Action Planへと進化してきた。制度の輪郭はかなり明確になった。

次の課題は、その制度を支える回収、処理、再資源化、データ、研究、人材をどう整備するかである。ここに「制度先行ギャップ」がある。

日系企業にとって、このギャップは規制対応コストであると同時に市場機会でもある。EPR対応、処理技術・プラント、共同研究・PoC、認証・モニタリング、JV・M&Aなど、関与方法は一つではない。

重要なのは、技術の優位性だけで参入を決めないことだ。どの廃棄物を、どの地域で、誰から回収し、どの品質まで再生し、誰が買うのか。その一連の流れを確認して初めて事業性が見える。制度が実装へ移る現在は、その検証を始めるタイミングである。

外部出典一覧

ベトナム政府/Decision 222/QĐ-TTg(23 Jan 2025)

ベトナム政府/Decree 110/2026/NĐ-CP

ベトナム農業・環境省/有効法令一覧(Law 72/2020、Decree 08/2022、05/2025)

JICA/Waste to Energy and Waste Treatment Project in Binh Duong Province

JICA/2025年 廃棄物管理・循環経済案件業務指示書

日本環境省/令和8年版環境・循環型社会・生物多様性白書

UNDP Viet Nam/Catalyzing Circular Economy Transition(9 Oct 2025)

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