2025年ベトナムEC市場の現状:劇的な構造変化
ベトナムの電子商取引(EC)市場は、かつてない激動の時代を迎えている。Momentum Worksの最新レポート「東南アジアEC市場2025」によると、ベトナムの主要ECプラットフォームの市場規模(GMV)は204億ドルに達し、前年比20%超の成長を維持した。
市場シェア構造に目を向けると、ShopeeがGMV 118億ドル(シェア58%)で依然として首位を独走しているが、投資家の注目はTikTok Shopに集まっている。TikTok Shopは、GMV約80億ドル、シェア39%を確保し、驚異的な躍進を遂げた。

出典: VNExpress
最も注目すべき点は、首位との格差縮小だ。2024年にはShopeeとTikTok Shopの差は37ポイントもあったが、わずか1年で19ポイントまで縮まった。Shopeeの成長が安定期(約6%増)に入る中、TikTok Shopは2年連続で90%超の成長を記録した。一方でLazadaやTikiなどの従来型プラットフォームは衰退(合計シェア3%)しており、市場における淘汰が激化している状況が浮き彫りになっている。
「コンテンツコマース」の定義と消費者行動の変化
TikTok Shopの台頭は、単なる数字の増加にとどまらない。それは、「コンテンツコマース(商流と情報の融合)」という新しい時代の幕開けを意味している。
- 概念: 娯楽コンテンツ(短尺動画、ライブ配信)と購買体験を同一アプリ内でシームレスに融合させたモデルである。
- 消費者行動の変化: 従来の「製品検索→価格比較→購入」というフローから、ベトナムの若年層(Z世代・ミレニアル世代)を中心に「視聴→楽しむ→欲しくなる→即購入」というモデルへ転換している。
- KOC (Key Opinion Consumer) の役割: 影響力を持つ消費者であるKOCが、最も重要な架け橋となる。彼らは単なる製品紹介にとどまらず、ライブ配信での実体験を通じて信頼を構築し、ユーザーの即時購買を強力に後押ししている。
TikTok Shop急成長の理由分析
なぜ TikTok Shop は短期間で Shopee を脅かす存在になり得たのか。主な要因として以下の3点が挙げられる。
- 「オールインワン」型エコシステム: TikTokはユーザーの滞在時間を最大化することに成功した。娯楽プラットフォーム内にショップを統合することで、動画視聴から決済までを数秒で完結させ、ユーザーの離脱を防いでいる。
- 価格戦略と補助金 (Subsidies): 強大な資金力を背景に、送料無料や大幅な割引クーポンを連発した。価格に敏感なベトナム消費者の心理を巧みに捉えている。
- 高度なパーソナライズ・アルゴリズム: 検索エンジンとは異なり、TikTokのアルゴリズムは個々のユーザーの嗜好を深く理解している。顧客が必要としているものだけでなく、「好まれる可能性が高いもの」を提示することで、潜在需要を効果的に掘り起こしている。
戦略比較:Shopee vs TikTok Shop
これら二大巨頭の競り合いが、デジタル小売市場の新たな基準を形成している。
- Shopee: 「Shopee Live」への投資を強化し、コンテンツコマースの波に乗り遅れないよう首位防衛に注力している。依然として最適化された物流網と、高額商品でも安心な信頼性が同社の強みである。
- TikTok Shop: 拡散力とトレンド創出能力を最大限に活用している。現在、化粧品、ファッション、FMCG(日用消費財)分野では圧倒的な強さを誇る。
- 共通点: 両社ともに、コンテンツを単なる宣伝ツールではなく、「需要を創出する主要エンジン」へと位置づけている。

出典:Adplus
投資家にとっての課題と法的リスク
巨大なポテンシャルの一方で、ベトナムEC市場は日本企業にとって十分な準備なしでは「容易な進出先」ではない。
- コスト競争: プラットフォーム間のシェア争いにより、ブランド側は広告費や割引負担の増大を強いられ、利益率が圧迫される傾向にある。
- 法規制と税務: ベトナム政府はEC活動やライブ配信に対する税務管理を厳格化している。運営ライセンスの取得や消費者保護規定への遵守もより厳しくなっている。
- 模倣品とコンテンツの質: コンテンツプラットフォーム上では、個人販売者の製品クオリティ管理が依然として課題であり、適切な販売チャネルを選定しなければブランドイメージを損なう恐れがある。
日本企業の参入戦略提案
多くの日本企業を支援してきたコンサルティング経験に基づき、以下の3ステップを提案する。
- マルチチャネル戦略: 特定のプラットフォームに絞るのではなく、信頼構築のための「Shopee公式ストア」と、売上拡大のための「TikTok Shop」を組み合わせるべきである。
- コンテンツのローカライズ: 日本のモデルをそのまま適用するのではなく、現地の専門家と協力し、ベトナムの言語や文化、趣向に適合した動画・ライブ配信戦略を構築する必要がある。
- 詳細な市場調査の実施: 市場データ分析、専門家ヒアリング、競合評価は、大規模投資の意思決定における生命線となる。
まとめ
2025年のベトナムEC市場は、単なる数字の争いから、コンテンツの創造性と顧客行動の理解を競うステージへと進化した。TikTok Shopの躍進は、日本企業に対して「アプローチの変革」を促す明確なシグナルとなっている
ONE-VALUE株式会社(ONE-VALUE Inc.)について
ONE-VALUEは、1,000社以上の日本企業のベトナム進出を支援してきた総合コンサルティングファームです。
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