市場規模と成長ポテンシャル
ベトナムの医薬品市場は、構造的な加速期に入っている。BMIおよびSSIリサーチ(SSI Research-ベトナムの大手証券会社調査部門)のデータによると、市場規模は2021年の77億ドル(約1兆1,550億円)から2022年には約90億ドル(約1兆3,500億円)へと拡大した。さらに、2026年には161億ドル(約2兆4,150億円)に達すると予測されている。年平均成長率(CAGR)は11%に達する見込みであり、これはアジアの多くの成熟市場と比較して約2倍の成長スピードである。
この飛躍的な成長を支えているのは、以下の3つの核心的な基盤である。
- 医療支出の拡大余地: 2022年時点で約1億人の人口を抱えるベトナムは、東南アジアで第2位の医薬品消費市場である。しかし、一人当たりの年間医薬品支出額はわずか97ドル(約1万4,500円)にとどまり、2021年の平均年収の2.63%を占めるに過ぎない。これはタイやマレーシアなどの近隣諸国と比較しても著しく低く、世帯所得の向上に伴う成長余地が極めて大きいことを示している。
- パンデミック後の行動変化: 免疫力向上、抵抗力強化のための製品やサプリメントへの需要が急増している。2022年10月時点のデータでは、18歳以上の人口の80%が健康保護食品や栄養食品を利用している。
- 政府による政策支援: ベトナム政府は、2025年までに国内製造薬が使用量の75%、市場価値の60%を占めることを目標としている。2030年には、それぞれ80%と70%まで引き上げる計画である。改正診察・治療法(15/2023/QH15)や通達(06/2023/TT-BYT)の施行により、医薬品業界を牽引する病院向けチャネル(ETC)の整備が強力に推進されている。

産業構造と発展トレンド
ベトナムの医薬品サプライチェーンの最大の特徴は、原材料を輸入に大きく依存している一方で、最終製品の現地生産能力が急速に拡大している点にある。現在、原薬や賦形剤といった化学原料の約80~90%を輸入に頼っており、その主な輸入先は中国とインドである。国内企業は依然として輸入原料からの製剤化が中心であり、新薬開発(創薬)の活動は限定的である。
流通面では、市場はETC(病院向け)とOTC(薬局・小売向け)の2つの主要チャネルに分かれている。現在、ETCチャネルが圧倒的な優位性を誇り、その市場価値はOTCチャネルの約3倍に達している。現在の顕著なトレンドは、病院システムの高付加価値な入札グループ(グループ1およびグループ2)の要件を満たすため、EU-GMP、PIC/S、あるいはGMP-Japanといった国際的な高度製造基準へのアップグレードが加速していることである。
日本企業にとっての投資・提携機会
ベトナムの医薬品産業は現在、バリューチェーンの再構築段階にあり、日本企業にとって「唯一無二」の戦略的機会が開かれている。
1. 市場参入の鍵となるM&A:
現行の規制では、外資系企業はベトナム国内で医薬品を直接配送することが許可されておらず、国内の配送業者を経由する必要がある。そのため、既に上場しているベトナム医薬品企業の株式を取得することは、既存の流通システム、製品登録ライセンス、および全国の病院ネットワークにアクセスするための最短ルートである。大正製薬によるドゥックハウジャン製薬 (DHG Pharma:ベトナム最大手の製薬会社)の51%株式取得や、あすか製薬によるハタイ製薬 (Hapharco:ハノイを拠点とする大手医薬品企業)の約25%の出資といった成功事例は、このモデルの有効性を証明している。M&Aを通じて、日本企業はシェア拡大だけでなく、現地の流通ネットワークの管理や発展に深く関与することが可能となる。
2. 技術移転と品質基準での提携:
ベトナム国内企業の多くは、依然として単純なジェネリック医薬品(グループ3、4、5)の製造に注力している。より高いセグメント(グループ1、2)の入札に参加するため、製造ラインをEU-GMPやGMP-Japan基準に引き上げる需要が必然的な潮流となっている。これは、高度な製剤技術と厳格な品質管理プロセスを持つ日本の製薬会社にとって大きな商機である。大正製薬がドゥックハウジャン製薬 (DHG Pharma)に対して行ったように、あるいはニプロがメコファー (Mekophar:ベトナムの老舗医薬品メーカー)に対して行ったように、提携先の工場をGMP-Japan基準へ引き上げる支援を行うことは、他の多国籍企業に対する強力な競争優位性となる。
3. コストと地政学的優位性の活用:
ベトナムは東南アジアの他の国々と比較して、投資・製造コストが低く、政治環境も極めて安定している。EVFTA(欧州連合・ベトナム自由貿易協定)やCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)により、関税撤廃のロードマップが明確化されており、ベトナムから国際市場への輸出に有利な条件が整っている。日本企業は、ベトナムを国内市場向けの拠点としてだけでなく、ASEAN全域および世界市場への輸出ハブとして活用することが可能である。
4. サプライチェーン上流工程への参入:
原材料の80~90%を輸入に依存している現状は、高品質な原材料や特殊な賦形剤を提供する日本の原料サプライヤーにとって巨大な「空白地帯」である。現在、この市場には強力な競合相手が少なく、日本のサプライヤーは早期に主導的な地位を確立できる可能性がある。
結論
ベトナムの医薬品産業は、単に規模が拡大しているだけでなく、構造と品質基準において歴史的な転換期を迎えている。政府による国産化の推進と製造基準の高度化は、日本企業にとってかつてない「チャンスの窓」を開いている。
1億人の人口が抱える巨大な需要と、日本の卓越した技術・管理ノウハウの融合は、次世代の市場リーダーを生み出す最適の処方箋となるであろう。しかし、法整備が進行中であり特有の商習慣を持つこの環境において、成功を収めるためには資金力だけでなく、適切な戦略的パートナーの選定と参入モデル(M&Aや技術移転など)の構築が不可欠である。今こそ、日本企業がベトナム、延いては東南アジアの医薬品地図における自社のポジションを決定づけるべき、戦略的な黄金期である。
【主要企業リストサンプル】
📌下表はONE-VALUEによるベトナム製薬業界分析レポート(2025年) より抜粋したものです。企業情報は一部のみ公開しています。全企業の詳細プロフィールについては、contact@onevalue.jpまでお問い合わせください。
| No. | 企業名 | 設立年 | 所在地 | 資本金 (Bil VND) | 売上 (Bil VND) |
| ① | ████████████ | 1974 | Hau Giang | ██████ | ██████ |
| ② | ████████████ | 1972 | Ha Noi | ██████ | ██████ |
| ③ | ████████████ | 1989 | Phu Yen | ██████ | ██████ |
| ④ | ████████████ | 1989 | Dong Thap | ██████ | ██████ |
| ⑤ | ████████████ | 1983 | Dong Thap | ██████ | ██████ |
| ⑥ | Binh Dinh Pharmaceutical & Medical Equipment JSC | 1985 | Binh Dinh | 935.9 | 1,947 |
| ⑦ | ████████████ | 1995 | Ho Chi Minh | ██████ | ██████ |
| ⑧ | ████████████ | 1977 | Ho Chi Minh | ██████ | ██████ |
| ⑨ | ████████████ | 1976 | Vinh Long | ██████ | ██████ |
| ⓾ | ████████████ | 1965 | Ha Noi | ██████ | ██████ |
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【関連有料調査レポート】
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