ベトナムにおける不動産付き企業買収の動向と課題
サプライチェーン再編と既存インフラ取得型M&Aの拡大
世界的な地政学環境が変化するなか、ベトナムは外国直接投資の有力な受け皿としての地位を強めている。日本企業にとっても、許認可取得や建設に平均2〜3年を要する新規投資よりも、既存インフラを持つ企業を買収する方法が、より実務的な選択肢となりつつある。
特に、工場買収やオフィスビルを保有する企業の買収は、市場参入までの時間を短縮するだけでなく、対象企業が持つ立地、設備、運営体制を即時に活用できる点で大きな利点がある。ベトナム進出を急ぐ企業にとって、既存資産を取得するM&Aは、時間と運営基盤を同時に獲得する戦略といえる。
ベトナム特有の土地所有制度:外国投資家にとっての見えにくい障壁
一方で、日本企業が直面しやすい最大の課題は、土地制度の根本的な違いである。ベトナムでは、土地は全人民所有とされ、国家が統一的に管理する。企業が保有できるのは土地そのものではなく、土地使用権である。
さらに、土地使用権には、年払いの土地賃借と一括払いの土地賃借があり、それぞれ抵当権設定、譲渡、現物出資に関する権利が大きく異なる。ベトナムM&Aの過程でこれらの違いを十分に理解していなければ、買収後に想定していた資産権を行使できないという事態に陥る可能性がある。
情報透明性と「見た目の良い資料」に潜むリスク
もう一つの大きな課題は、ベトナム国内企業の情報透明性である。実務上、大規模な土地や好立地の建物を保有している対象企業であっても、会計帳簿が潜在債務を正確に反映していないケースがある。
例えば、土地使用権を担保とする複数の担保設定、第三者向け保証、簿外の合意などが、財務諸表上に十分に表れていないことがある。買い手が提供された財務資料だけを信頼すると、実際には固定資産が差し押さえ、担保設定、または紛争の対象になっているにもかかわらず、その価値を過大評価してしまうリスクがある。

用語解説:M&Aにおけるデューデリジェンスと信用調査
クロスボーダーM&Aにおけるデューデリジェンスの本質
国際的なM&Aプロセスにおいて、デューデリジェンスは、案件の実質価値を把握するための必須プロセスである。これは、対象企業の財務、法務、税務、運営、環境など、あらゆる側面を独立かつ客観的に確認する調査である。
リスク管理を重視する日本企業にとって、デューデリジェンスは単なる事務手続きではない。発見されたリスクに基づいて投資判断を行い、必要に応じて価格や取引条件を再交渉するための重要な根拠である。
不動産を多く保有する企業の買収では、複数のデューデリジェンスを連動させることが極めて重要である。
- 財務デューデリジェンス:キャッシュフロー、収益性、潜在債務を中心に確認する。
- 法務デューデリジェンス:土地使用権証明書、建設許可、会社定款、重要契約の合法性を確認するうえで中心的な役割を担う。
これらを分けて実施しながらも、相互に接続させることで、投資家は対象企業の実態を漏れなく重複なく把握できる。
経営者・株主に対する信用調査の重要性
法人そのものの調査に加え、信用調査も欠かせない。ベトナム市場では、法定代表者や創業株主の信用力が、会社資産の安全性に大きく影響する場合がある。
信用調査により、日本企業は以下のような点を確認できる。
- 経営者が銀行の不良債権リストに含まれていないか
- 過去に法令違反の履歴がないか
- 外部で複雑な借入関係を持っていないか
- 株主や実質支配者に信用上の問題がないか
これは、株式譲渡契約を締結する前に、買い手を守る最後の防御線といえる。
ベトナムM&Aで日本企業が注意すべき潜在的な不動産リスク
権利関係の紛争と未実施の都市計画リスク
古い都市部や工業団地では、書類上の土地境界と実際の境界が測量誤差などにより一致していないケースがある。このリスクは、買収後に新しい所有者が建物を改修したり、工場を拡張したりする段階で初めて表面化することが多い。周辺住民や近隣企業から反発を受ける場合もある。
また、対象土地が地方政府の土地利用目的変更計画に含まれている場合、投資家の資産査定価値は大きく下落する可能性がある。最悪の場合、M&A後に土地が回収されるリスクもある。
建設許可違反と新しい消防基準への未対応
ベトナムの不動産資産では、一定期間の運営後に、補助施設の増築や用途変更が行われることが少なくない。しかし、その際に追加の建設許可を取得していないケースも多い。この場合、完工手続きや所有権証明書への資産反映が困難になる。
特に注意すべきなのは、ベトナムの消防規制が2023年以降、大きく変更されている点である。古い書類上は問題がないように見える建物や工場でも、実際には新基準を満たしていないことがある。買収後に直ちに操業停止を命じられるリスクもあるため、消防基準の確認は極めて重要である。
環境リスクと廃棄物処理の問題
生産施設を買収する場合、多くの投資家が見落としがちなのが環境リスクである。対象企業が過去に基準を満たさない排水を行っていたり、承認済みの環境影響評価報告書に沿った排水処理設備を整備していなかったりする可能性がある。
ベトナムでは、環境分野の行政罰が重くなっており、買収後には新しい所有者が是正責任を引き継ぐことになる。環境・社会・ガバナンスを重視する日本企業にとって、これは財務的な損失にとどまらず、深刻な広報リスクにもなりうる。

現地資産査定とリスク検証のプロセス
現地確認:紙の資料を超えて実物を確認する
当社の助言における基本原則は「現地現物」である。法的書類に記載された情報は、必ず現場で直接確認する必要がある。
現地での資産査定には、以下のような確認が含まれる。
- 土地境界の実測
- 工場・オフィスなど建物構造の品質確認
- 設備やインフラの老朽化状況の確認
- 実際の運営状況の確認
- 外部からの土地侵入や占有の有無の確認
- 周辺関係者へのヒアリング
インフラの劣化や外部からの土地占有は、事務所で書類を確認するだけでは発見できない。現地視察と関係者への聞き取りによって初めて把握できることが多い。
当局および独立情報源での確認
客観性を確保するためには、天然資源環境局や地方の土地登記事務所での確認が不可欠である。特に、土地使用権が裁判所や執行機関の命令によって差し止められていないかを確認する必要がある。
また、都市計画管理機関から情報を取得することで、対象企業が土地関連の財務義務を滞納していないか、未処理の行政違反を抱えていないかを把握できる場合がある。こうした独立情報源からの確認は、売り手が提供する資料だけでは見えないリスクを補完するうえで重要である。
デューデリジェンス結果に基づく取引価値の再評価
発見されたリスクを総合したうえで、実態に基づく資産評価報告書を作成する必要がある。日本企業は、この結果を価格交渉の材料として活用できる。
具体的には、以下のような対応が考えられる。
- 買収価格の調整を求める
- 売り手に一定額のエスクローを求める
- 引渡し後の一定期間内に法的未処理事項を解消させる
- 表明保証や補償条項を追加する
- 重大リスクがある場合は取引を中止する
法務リスクを金銭価値に換算することで、M&A取引はより透明になり、買い手側の投資リスクを大幅に抑えることができる。

専門的な助言サービスによる投資リスクの低減
現地に精通したアドバイザーの活用
ベトナムのように情報の時差があり、法規制が急速に変化する市場では、外国企業が自社だけでデューデリジェンスを行うことは容易ではない。
ONE-VALUEのように現地専門家チームを有するアドバイザーと連携することで、投資家は公開資料には表れにくい現地情報を得やすくなる。また、地方ごとに異なる行政実務や当局対応の実態を理解できるため、ビジネス文化の違いによる誤解を減らし、リスク確認にかかる時間を短縮できる。
まとめ
不動産資産を伴うベトナム企業買収は、日本企業にとって新たな事業機会をもたらしている。しかし、実務上の事例が示す通り、不動産リスクや信用リスクの評価を誤れば、有望に見える案件が長期的な財務負担に変わる可能性がある。
安全な近道は存在しない。重要なのは、現地でのデューデリジェンスと信用調査を、真剣かつ体系的に実施することである。
日本企業の経営者にとって必要なのは、「資料を信じる」姿勢から、「現地で実際に確認する」姿勢へ転換することである。深い専門知識と現地市場への理解を持つアドバイザーを確保することは、ベトナムに投じる資本を守るための最も確実な防御策となる。ONE-VALUEの支援サービスについて
ONE-VALUEは、対象企業の探索、デューデリジェンス、現地資産査定、買収後の統合支援まで、M&Aを一気通貫で支援している。実務経験豊富な専門家チームにより、日本企業がベトナム案件に潜むリスクの「見えない盲点」を把握し、各取引の価値を最大化できるよう支援する。
M&A案件に関する相談や、潜在的な投資案件の詳細情報を希望する企業は、ONE-VALUEまで問い合わせいただきたい。
ONE-VALUE株式会社(ONE-VALUE Inc.)について
ONE-VALUEは、1,000社以上の日本企業のベトナム進出を支援してきた総合コンサルティングファームです。
- 市場調査・戦略立案: 深い市場理解に基づくロードマップ策定。
- M&Aアドバイザリー: ターゲット選定からPMIまでの一貫支援。
- 販売・マーケティング代行: 代理店開拓から実務運用まで。
- 撤退支援(事業整理・清算支援): 事業整理、法人解散、清算手続などのサポート。
- エキスパート・プラットフォーム: 32分野5,000名以上の専門家への直接アクセス。詳細については、こちらよりご確認いただけます。
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