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シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後

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シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後

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はじめに

ベトナムの太陽光発電はここ数年で一挙に開発が進んだ。ベトナム政府は太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーの開発に注力しており、今後もベトナム国内外からの投資を呼び込んでいく方針を掲げている。

その目覚ましい発展を支えた日本企業の1つが、シャープエネルギーソリューション株式会社である。

この度、ベトナム特化の経営コンサルティング会社が運営するベトナム経済・ビジネス情報サイトVietBiz(ベトビズ)は、シャープエネルギーソリューション株式会社、執行役員プロジェクト統轄部長の黒澤正美氏にインタビューを行い、ベトナムの太陽光発電に関する取り組みと今後の展望について詳しく語って頂いた。

シャープがなぜベトナムの太陽光発電市場で大きな成功を収めることができたのか、その核心に迫っていきたい。

東南アジアの太陽光発電大国:ベトナム

ベトナムの再生可能エネルギー開発、脱炭素の動きが2018年以降、急速に進んでいる。

2017年、ベトナム政府は国内外の投資家による太陽光発電の開発を促すため、固定価格買取制度(FIT)を開始した。当時、ベトナム国内における太陽光発電の設備導入量はほぼゼロに等しかった。

しかし、2020年末までの数年足らずで、合計9GWの太陽光発電所が送電線に接続された。史上、稀に見るスピードで太陽光発電の開発がベトナムでは進んでいる。

2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成目標

ベトナムのファム・ミン・チン首相は2021年11月1日、イギリスで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)首脳級会合で、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと表明した。

ベトナムはパリ協定に基づく温室効果ガスの削減目標として、2030年までに気候変動対策を実施しなかった場合と比べて国内の自助努力で9%(8,390万トン相当)削減、国際援助を加えて27%(2億5,080万トン相当)削減と掲げていた。

2050年のカーボンニュートラル達成がいかにベトナム政府にとって踏み込んだ内容であったかが読み取れる。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:黒沢氏
今回インタビューに応じて頂いたシャープエネルギーソリューション株式会社の黒澤氏

ベトナム太陽光発電の先駆者:シャープエネルギーソリューション株式会社

わずか数年で太陽光発電大国になったベトナム。その発展を支えた企業の1つが、シャープエネルギーソリューション株式会社である。

シャープエネルギーソリューション株式会社は日本国内で住宅用、産業用太陽光発電事業を行うほか、アジア、欧州を中心に国内外で大規模太陽光発電事業などを手掛けている。(以下、「シャープエネルギーソリューション株式会社」は「シャープ(SESJ)」と呼称する。)

シャープ(SESJ)は2017年にベトナム市場に参入し、ベトナムの太陽光発電市場が現在のように注目される前から大規模太陽光発電事業(メガソーラー)に取り組んできた。

これまでシャープ(SESJ)はEPC事業者として、7件のメガソーラーを完工し、出力規模の合計は約340MW。現在は8件目の案件を手掛けている。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:シャープによるベトナムでの大規模太陽光発電の開発実績
シャープ(SESJ)によるベトナムでの大規模太陽光発電の開発実績一覧 ※2021年12月2日時点 (出所)シャープ

──まず始めに、ベトナム市場の参入のきっかけについてお聞きしてもよろしいでしょうか?

黒澤 政策面ではFIT制度があり、有望市場と考えました。また、ベトナム企業や政府とやり取りをして、ベトナム側の強いやる気を感じたことが大きなきっかけの1つです。──

ベトナム政府は2017年4月11日付で、太陽光発電の固定買い取り価格や優遇措置などを定めた首相決定11/2017/QD-TTg号(首相決定11号)を定めた。

首相決定11号によれば、「固定価格買い取り制度(FIT制度)」が初めてベトナムに導入され、太陽光発電の固定買い取り価格は、1キロワット時(kWh)当たり9.35セント(2,086ドン)となった。

日本企業がベトナム市場に参入する際に、挙げられる課題は枚挙に暇がない。例えば、法規定の未整備により準拠すべき法律があいまいな状況が生じているといったケースは多々ある。商習慣の違いも当然ある。

シャープがベトナムで大規模太陽光発電事業に着手した2017年は太陽光発電の市場が現在のようにきちんと形成されていなかった時期でもあり、苦労も大きかったのではないかと推察される。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:黒沢氏
(画像)シャープエネルギーソリューション株式会社の黒澤氏

ベトナム大規模太陽光発電のスタンダードを作る立場に

──先駆者としての苦労やベトナムならではの課題もあったのではないですか?

黒澤 日本で事業を行う場合と時間軸が全く異なります。50MW規模の開発を僅か半年で終わらせるベトナムならではの進め方もありました。また、コミュニケーションの問題も大きな問題の1つです。専門的な言葉やベトナムの複雑な税制等、事業を進める上での意思疎通の問題は常にありました。──

──そうした課題を乗り越えるためにどのように対処したのでしょうか?

黒澤 コミュニケーションの問題については分かり合うまで話しました。語学を超えたところまで、徹底的に理解できるまで話しました。また、シャープ(SESJ)はこれまでのメガソーラー開発の経験やノウハウによるプロキュアメント能力が大きな強みだと考えています。ベトナム特有の時間軸にも対応ができました。

やはり、ベトナムで初めてのメガソーラーとなった、1号案件をシャープ(SESJ)が実施できたことが大きいと思います。法規定のあいまいな部分についても、ベトナム政府やベトナム電力公社(EVN)と徹底的にコミュニケーションを行い、シャープ(SESJ)から提案をしていくことで、ルールのスタンダードを作る立場になれたからです。──

ベトナムで初めての大規模太陽光発電所はThanh Thanh Cong(TTC)グループのGia Lai Electricity JSC(GEC)社が中部トゥアティエン・フエ省で開発したTTC Phong Dien太陽光発電所である。

約48MW-dcの大規模出力で、年間予測発電量は約61,570MWh/年となり、ベトナムの一般的な家庭の年間消費電力量で換算すると、約32,628世帯分に相当する。

シャープ(SESJ)はベトナムで初めて商業運転をしたこのメガソーラーの建設を受注した。確かに、ベトナムで初めてEPC事業者としてメガソーラーの建設を受注したことは大きな経験の蓄積になったと想像できる。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:シャープが受注したベトナムメガソーラーの1号
(画像)シャープ(SESJ)が受注したベトナムメガソーラーの1号案件(出所)シャープ

信頼関係のあるベトナム現地パートナーの存在

──その他に、成功要因として認識している要因はありますか?

黒澤 現地ネットワークが早い段階からあってベトナムの事情をよく理解していたことと、信頼関係で結ばれている現地パートナーの企業の存在が大きかったと感じています。 ──

シャープ(SESJ)は、ベトナムの優良EPC業者「NSN CONSTRUCTION AND ENGINEERING JSC(以下、NSN社)」と、太陽光発電所などの建設を担う合弁会社の設立に関する契約を、2019年、12月20日に締結している。

シャープ(SESJ)は、NSN社他が2019年3月に設立した再生可能エネルギー関連の建設会社「NSN ENERGY SOLUTION JSC」の発行済株式の60%を2020年3月に取得して子会社化し、この会社の社名を「SHARP NSN ENERGY SOLUTION JSC」に変更している、

この合弁会社設立により、大規模太陽光発電所の建設における設計・調達から、建設まで一貫して提供する体制を構築することが可能となった。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:署名式の様子。左から、NSN CONSTRUCTION AND ENGINEERING JSC 代表取締役社長 Thach Hoang Ngoc。シャープエネルギーソリューション株式会社 取締役社長 佐々岡 浩。SHARP NSN ENERGY SOLUTION JSC 代表取締役社長 Hoang Thanh Hai 
(画像)署名式の様子。左から、NSN CONSTRUCTION AND ENGINEERING JSC 代表取締役社長 Thach Hoang Ngoc。シャープエネルギーソリューション株式会社 取締役社長 佐々岡 浩。SHARP NSN ENERGY SOLUTION JSC 代表取締役社長 Hoang Thanh Hai (出所)シャープ

シャープ(SESJ)が2017年という早い時期から、ベトナム現地の事情をよく理解していたことはインタビューをして強く感じたポイントの1つだ。シャープ(SESJ)はベトナム現地で広く使用されるチャットアプリのZalo(ザロ)も駆使し、ベトナム現地での情報収集を行ってきた。ベトナムの深いローカルの部分まで入り込んできたことが伺える。

黒澤氏によれば、NSN社が日本企業のやり方や事業をよく理解してくれた点が信頼関係の構築につながったと言う。納期の重要性や日本企業の指示の仕方、日本企業がこだわる細かな部分にまでNSN社が理解を示してくれたと語ってくれた。

ベトナム企業との商談でよくありがちな、「何でもできる」というベトナム企業のアピールではなく、「できること以外は言わない」というNSN社の姿勢も信頼構築につながったと黒澤氏は語る、

その後、1号案件での経験を基に、シャープ(SESJ)はベトナム市場での事業拡大を展開した。代表的な案件として、ビンディン省の大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が挙げられる。この案件もシャープ(SESJ)がNSN社らと共同で開発した案件である。

出力規模は、約50MW-dc。年間予測発電量は約82,506MWh/年を見込み、ベトナムの標準的な家庭の約43,700世帯分の年間消費電力量に相当するという。

想定される温室効果ガス排出削減量は約27,474tCO2/年を見込み、ベトナムのクリーンエネルギーの開発に大きく貢献した代表的な案件と考えられる。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:建設した太陽光発電所
(画像)シャープ(SESJ)などが建設したビンディン省の大規模太陽光発電所(出所)シャープ

ベトナム国内で1GW規模の開発を目標

──今後のシャープの方針をお聞きしてもよろしいでしょうか?今後はEPC事業者としてだけでなく、投資家としてベトナムで事業を行っていくのでしょうか?

黒澤 EPC事業者としての利益が少なくなっている現状下、自ら出資し発電所建設を行い発電事業にも取り組んでいきたい。シャープは日本国内では既に発電事業を行っています。

内陸の大規模太陽光発電に特に注目しています。工場の屋根に設置する屋根置き型(ルーフトップ)太陽光発電も有望だと考えています。

風力発電も視野に入れますが、まずは太陽光発電に注力し、1GWの開発をベトナムでは目標としています。──

──1GW規模はかなり高い目標ですね。FIT制度は2020年末に期限を迎え、FIT価格の引き下げや入札制度への移行もベトナム政府内では議論されているようです。DPPA(Direct Power Purchase Agreement:直接電力供給契約)の実現も期待されています。

黒澤 DPPA制度には高い関心を持っています。現状では唯一のオフテイカーであったEVN以外にも売ることができるようになります。──

現状のベトナム電力市場では、ベトナム電力公社(EVN)が唯一の電力購入者となる取引のみが想定されている。しかし、DPPA制度が導入されれば、発電事業者は電力需要者に対して直接買い取り契約を締結することができる。

2020年4月、ベトナム商工省は、再生可能エネルギー発電事業者と電力使用者間の直接電力買い取り契約(DPPA)制度の試行に向けた規定の草案を公表し、意見を求めた。既に試験的な動きも始まっている。

シャープ黒澤氏に聞くベトナム太陽光発電事業の成功要因と今後:シャープ(SESJ)などが建設したニントゥアン省の大規模太陽光発電所
(画像)シャープ(SESJ)などが建設したニントゥアン省の大規模太陽光発電所(出所)シャープ

ベトナムでの電源のベストミックスへの貢献

──最後に、ベトナムという国を自社にとってどのように位置付けているかお聞きしてもよろしいでしょうか?

黒澤 弊社にとって非常に重要な国だと考えています。ベトナムは世界有数の親日国ですし、今後も日本にとっても弊社にとっても重要なパートナー国であり続けると感じています。

シャープは太陽光発電の事業の歴史は60年以上あります。日本企業だけでなく、ベトナム企業にもシャープの信頼性が広がり、ベトナムでの大規模太陽光発電の開発を通じた電源のベストミックスに貢献することが大きなミッションです。──

ベトナム政府は再生可能エネルギーの開発に大きく舵を切った。2021年11月、イギリスで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)首脳級会合では、脱炭素を掲げる先進国と経済発展を重視する新興国との間で意見の隔たりがあった。

しかし、ベトナムのファム・ミン・チン首相は2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと表明しており、脱炭素に積極的な方針が読み取れる。

確かに、ベトナムの太陽光発電市場には課題も多い。急速な太陽光発電の開発が影響し、開発が集中した一部の地域では送電線不足による出力抑制の問題も指摘されている。

しかし、ベトナムは増え続ける電力需要に対して、石炭火力発電の開発よりも再生可能エネルギーの開発を優先し、世界の脱炭素の動きに大きく貢献しようとしている積極性は高く評価できるのではないだろうか。

インタビューを終えて(VietBizとしての考察)

今回のインタビューを通じて、発展段階にあるベトナムの太陽光発電市場の中で、シャープは早い時期から現地のネットワークを開拓し、現地事情に精通していたことが伺えた。

ベトナム企業の商習慣やコミュニケーションの違いもあるなかで、諦めずにコミュニケーションを取り続けてきたタフネスさもインタビューを通じて伝わってきた。

そして、信頼の置ける現地パートナーの存在がシャープのベトナムでの成功の大きな要因だったのではないかと今回のインタビューを通じて率直に感じた次第である。

今後もベトナム経済・ビジネスに最も詳しい情報サイトとして、VietBiz(ベトビズ)はベトナムの再生可能エネルギーの開発とシャープの動向を注視していきたい。

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ベトナムでのビジネス成功のコツ

将来の成長ポテンシャルが大きいベトナム市場。ベトナム市場の有望性は感じていても、「実務上は様々な課題がたくさんある」という意見も少なくありません。

ONE-VALUEはベトナム特化の経営コンサルティング会社として、日本企業の抱える課題解決を行います。

ベトナムの市場調査を行いたい、消費者向けの調査を行いたい、ベトナム企業の情報を収集したい、現地パートナーを探索したい、ベトナムでM&Aを行いたい、その他ベトナム進出や事業拡大、投資に関する日本企業の課題をONE-VALUEは解決します。

メリット① ベトナム特化のコンサルティング会社

ONE-VALUEはベトナムだけに特化しています。ベトナム大手企業役員、有力未上場企業マネジメント層、地方政府・中央政府の高官、有識者、ベトナム消費者にアプローチ可能です。

メリット② 日本企業のニーズに柔軟対応

市場調査やM&Aから、スポットでの情報収集(スポットコンサルティング)まで幅広いニーズに応えたコンサルティングサービスを柔軟に提供します。

メリット③ 今後の有望セクターに注力

ベトナムはこれまで製造拠点として見られてきましたが、経済発展に伴う中間層・富裕層の拡大に伴い、消費市場として注目されています。ONE-VALUEはエネルギー・環境、ヘルスケア、IT、日用消費財、小売、食品、教育といった有望セクターに注力しています。

最後に

ベトナムビジネスの課題解決のプロフェッショナル集団であるONE-VALUEは日本企業のベトナムビジネスを支援します。ベトナムビジネスで課題をお持ちの方は是非ご連絡ください。随時相談はこちらから受け付けております

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